特集1:キャリア教育・進路指導:教科で進める「キャリア教育」
新潟県上越市立雄志中学校

新潟県上越市立雄志中学校

1989年に2つの中学校が統合して開校。生徒の8割ほどが祖父母と同居する三世帯家族である。08年度は「学力の向上」「キャリア教育の推進」「特別支援教育の充実」を重点課題と位置づけ、すべての教育活動におけるキャリア教育の実践を目指している。

校長●佐藤賢治先生

児童数●211名

学級数●8学級(うち特別支援学級2)

所在地●〒943-0119
新潟県上越市大字下池部707

TEL●025-523-2404

FAX●025-523-1304

URL●http://www.yushi.
jorne.ed.jp/


田中哲也

▲上越市立雄志中学校

田中哲也
Tanaka Tetsuya
研究主任、理科担当
VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
   PAGE 12/22 前ページ 次ページ

【学校事例2】 新潟県上越市立雄志(ゆうし)中学校

「学び」と「生活・仕事」を
地域事業者とのTT(ティーム・ティーチング)で結ぶ

キャリア教育の考え方を教科学習に反映させるためには、どのような指導の視点が必要なのか。
地域の事業者とのティーム・ティーチングを通して、
「生きるとは」「仕事とは」を考えさせる雄志中学校の理科の授業を紹介する。

地域事業者と共通のメッセージを生徒に伝え、ねらいを徹底

 理科室の教壇に置かれた段ボール箱の中から、田中哲也先生が豚の内臓を取り出した瞬間、「うおーっ」と生徒のどよめきが広がった。
 「みんなは豚肉を食べるよね。でも、この塊をだれかが切り分けてくれないと食べられません。これは昨日まで生きていた豚の内臓だよ」
 田中先生の説明のあと、生徒は教壇のまわりに集まった。田中先生は、豚を提供した食品加工業者の佐藤隆義社長と一緒に、ひとつながりになっている器官を一つひとつ説明していく。胃なら大食いタレントの名前、心臓なら「みんなが足の小指を動かせるのは、心臓が血液を送り出し続けているからです」というように、身近な話題に引き付けて生徒の興味をかき立てていく。一通り説明が終わると、生徒にゴム手袋を渡し、内臓を触るように促す。初めて経験する匂いに戸惑いながらも、生徒たちは次々と手を伸ばした。
 この日は2年生の理科「体の内部器官」の単元の1回目だ。このような授業にしたねらいは二つある。一つは、予備知識のない生徒にあえて実物を触らせることで、今後の学習への関心や意欲を持たせること。田中先生は「本校には、受け身がちで比較的おとなしい生徒が多いですが、今日は普段より積極的に動いたり質問したりする態度が見られました」と話す。
 二つめのねらいは、キャリア教育の観点から。教科学習に関連する職業人からのメッセージを加えた授業を行うことで、生徒の人間形成をも目指す。今回の授業でいえば、理科を通して命や食べ物の大切さや仕事の意味を見つめるきっかけを与え、自分の生活を振り返り、今後について考えさせるという試みだ。

図
評価
 写真
地域の事業者からの厚意で提供された豚の内臓を取り囲む生徒。田中先生(中央右)と佐藤社長(中央)が器官の名前と機能を解説した

 「事業者の方との協同授業にしたのは、2人がそれぞれの立場から共通のメッセージを発信することで、授業のねらいをしっかり押さえさせるためです。特に実際に働く人の言葉は、生徒にとって新鮮で、心に響きます。多様な職業が食生活を支えているように、授業や行事も皆で協力し合って成立していることも、今回伝えたかったことの一つです」(田中先生)
 授業の最後は、佐藤社長の「人間はほかの生き物の命を奪わなければ生きられません」「養豚や輸送、小売などいろいろな職業がかかわり、豚肉は私たちの食卓に並びます。仕事を通してみんなが助け合い、世界が成り立っています」という話で締めくくられた。この約15分間、生徒はじっと佐藤社長を見つめて聞き入っていた。
 佐藤社長は「小さいときに親や先生以外の大人と接する機会が減ったせいか、新入社員を見ていると、適切な言葉遣いができないと感じています」と指摘する。授業の始めと終わりにいつも以上に大きな声で挨拶をした生徒を目にして、田中先生は「外部の方にはきちんと対応しなければならないと考えたのでしょう。小さなことですが、これも大切なコミュニケーション能力です」と話す。体験活動は教科目標のためだけでなく、キャリア教育の視点から見ても、生徒が将来必要な知識やマナーを身につけられる効果があると、田中先生は感じている。


   PAGE 12/22 前ページ 次ページ