特集2-新学習指導要領:事例で見る「言語活動」の取り入れ方
工藤文三

▲国立教育政策研究所 初等中等教育研究部長 工藤文三

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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【研究者の視点】

「言語活動」の意義を理解し
従来の授業の改善を進める


国立教育政策研究所 初等中等教育研究部長 工藤文三

厳密に定義せずに幅広い力を支える活動と捉える

 新しい学習指導要領では、「言語活動の充実」が教育内容の改善事項として重視されています。「言語活動」が国語科以外の各教科等の教科書にも反映されることに、戸惑いを覚えている先生も多いのではないでしょうか。まずは言語活動の位置づけを理解し、全体像を把握することから始めましょう。
 言語活動は、「基礎的・基本的な知識及び技能」や、「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力」(注1)などの力を支えるための活動の一部と位置づけられます。あくまでも、これらの力を育てるためのプロセスであり、言語活動そのものが目的ではないことに注意してください。
 活動に先立ち、言語活動を厳密に定義しようと考える学校もあるでしょう。ところが、「言語活動」が意味する範囲は非常に幅広く、さまざまな力にかかわるため、定義付けや図式化により、かえって表層的な活動に陥ってしまう危険性があります。
 例えば、理科では、観察や実験の計画を立て、結果を整理し、科学的な概念に基づいたレポートを作成する学習などが、言語活動に該当します。この活動に求められる能力を考えると、言語に関する技術だけではなく、思考力や自己表現力をはじめ、さまざまな要素がかかわっていることがわかります。
 今回、言語活動が導入されるのは、PISA(注2)によって、読解力低下に関する実態が明らかになったことが、直接的な理由の一つとして挙げられます。読解力も、幅広い概念ですが、言語活動によって育成を目指す力は、この読解力も含んでいると考えられます。このように、「言語活動」は多様な力に関連しているのだと、大きく捉えるのがよいでしょう。

ゴールは「思考力・判断力・表現力」「活用力」などの育成

 言語活動は、具体的にはどのように授業に反映させればよいのでしょうか。新しい学習指導要領における言語活動に関する記述で特徴的なのは、総則だけではなく、各教科の中にも明記されていることです。学習指導要領に沿って指導計画を作成すれば、自ずと授業には言語活動が盛り込まれることになります。
 内容を見ると、理科では前述した内容が含まれるほか、社会では「持続可能な社会を形成するという観点から、私たちがよりよい社会を築いていくために解決すべき課題を探究させ、自分の考えをまとめさせる」、音楽では「音楽を形づくっている要素や構造と曲想とのかかわりを理解して聴き、根拠をもって批評するなどして、音楽のよさや美しさを味わうこと」といったように、各教科について、かなり具体的に示されています。
 こうした内容に従い、従来の指導計画を見直して不十分な箇所には追加や修正を加えることから始めるのがよいでしょう。言語活動は、これまでも各教科の中で全く取り組まれていなかったわけではないと思います。ゼロからではなく、これまでの指導の延長線上に位置すると考えてみてください。
 ただ、注意していただきたいのは、言語活動を行ったか否かが授業のゴールではないことです。あくまでも最終的なゴールは、「思考力・判断力・表現力」「活用力」などの育成であり、言語活動はその土台であることを意識して取り組んでください。
注1 平成20年3月告示「中学校学習指導要領 第1章 総則」より
注2 OECD(経済協力開発機構)が実施する、15歳児(日本では高校1年生)を対象とした国際的な学習到達度調査。2000年に第1回の本調査を行い、以後3年ごとに実施。07年12月に結果が発表された06年調査は第3回。第1回は読解力、第2回は数学的リテラシー、第3回は科学的リテラシーを重点的に調べている

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