特集1 :生徒指導:行事で育てる高め合う生徒
伊藤亜矢子

いとう・あやこ◎博士(教育学)。専門は学校臨床心理学、コミュニティ心理学。東京大大学院教育学研究科を単位取得満期退学。北海道大学教育学部助手等を経て、現職。著書に、『学校臨床心理学~学校という場を生かした支援~』(編著、北樹出版)、『臨床心理学全書 第5巻 臨床心理学研究法』(共著、誠信書房)など


VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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【インタビュー】座談会を終えて

生徒の動きを引き出し
その活動を見守る工夫を

お茶の水女子大大学院人間文化創成科学研究科 発達臨床心理学コース 准教授(臨床心理士)

伊藤亜矢子

 座談会では、先生方から行事に関する生徒のエピソードを数多くうかがいました。そこで改めて感じたのは、学校行事が生徒の成長に与える影響の大きさです。
 授業とは違う場で、みんなの前で自分の意見を伝えたり、ほかの人の考えを知ったりしながら、一つのことに取り組む、一つのものをつくり上げるという体験は、教科学習だけではなかなかできません。行事ではクラスメイト全員が参加しかかわり合うという点も、学級づくりのよいきっかけになります。
 このように、生徒によい影響を与える行事をつくるためのポイントは、次の3つにまとめられるのではないでしょうか。

ポイント1
学級の状況を考慮しながら生徒を見守り、適切な手助けを

 心理的な発達段階から見ると、中学生は教師の手を離れて自分で行動しようとする時期にあたります。生徒が主体となって運営する学校行事は、自ら考えて試行錯誤し、大きく成長していくよい機会となります。
 けれども、「生徒に任せる」ということは「指導しない」という意味ではありません。生徒ににどの程度任せられる状態なのかを判断しながら、学級の成長に合わせて、適切に手助けすることが必要です。座談会で出たアイデアの中ですぐに取り入れられそうな工夫の一つは、リーダーを複数設けることです。例えば、合唱大会では、指揮者と伴奏者だけではなく、パートごとにリーダーを設ける。リーダー同士が助け合え、負担を分散できるというメリットがあります。いろいろな生徒がリーダーを体験でき、学びのチャンスも増えます。
 生徒に運営を任せたあとも、教師は生徒のそばにいて、様子を見守ることが重要です。過不足なく手助けをするためにも、生徒の状況を把握しておく必要があります。アドバイスは、「こうしなさい」と言うのではなく、「去年の先輩はこうしていたよ」とヒントを伝えるのが効果的な場合もあります。特に2年生になると「先生に指図されたくない」という気持ちも強くなります。支援の仕方も工夫のしどころです。
 また、体育大会や合唱大会といった専門的な指導スキルが必要な行事では、行事の特性をつかむことで、スキル不足をカバーできるというお話がありました。例えば、体育大会のリレー競技ではバトンゾーンをうまく使う、合唱大会では会場が体育館か地域のホールかによって、声の大きさとハーモニーのどちらで勝負するのかを決める、など先生方の「秘策」が印象的でした。こうした先生の工夫も、生徒の頑張りを支えるものの一つだと思います。

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