ながい・よりくに◎早稲田大教育学部卒業。読売新聞社で教育・司法・企画連載を担当後、論説委員として活躍。女子美術大教授を経て、2007年に現職。文部科学省の有識者会議委員、中央教育審議会臨時委員等を歴任。『学校変革のリーダーを創る』(共編著、明治図書)など著書多数。
政策研究大学院大客員教授
永井順國
日本を含め、世界規模で社会システムが変容している今、中学校教育はどのような役割を果たしていくべきなのか。 日本の学校制度における中学校教育の歴史的な位置付けや今後の展望を、長らく教育ジャーナリストとして活躍し、中央教育審議会臨時委員等を歴任した政策研究大学院大の永井順國客員教授にうかがった。
戦後に新制中学としてゼロからスタートした日本の中学校教育は、これまで重要な役割を果たしてきました。現在の社会全体を見渡すと、日本も含め世界全体の近代化が終焉(えん)し、情報化・グローバル化が進み、知識基盤社会へと移ってきています。そのような中、今、改めて中学校教育の位置付けが問われています。 まず、中学校教育の歴史をひも解いてみましょう。 中学校は、小学校と高校とをつなぐ重要な教育段階でありながら、その位置付けが極めて微妙で曖昧なまま今日に至っています。その理由は大きく分けて二つあります。 一つは制度上の課題です。日本の学校教育制度は1872(明治5)年に始まりました。西洋の近代化に追い付き、富国強兵を進めるために、中央統制の下で欧米の手法を全面的に取り入れたものです。初等教育機関として小学校を整備し、義務教育を始めた一方で、欧米に追い付くための高度な教育機関として大学をつくりました。 中等学校、つまり中学校と高等学校は、この小学校と大学をつなぐ教育機関として、小学校と大学ができたあとに整備されました。しかも、中学校に限っていうと、子どもを高校に送り出す「前期中等教育」としての役割を持つと同時に、「後期義務教育」として義務教育の仕上げ段階の役割も担っています。中学校教育は、近代学校制度の始まりから、中途半端な立場が宿命付けられていたといえます。 もう一つは発達段階からみた難しさです。13~15歳の中学生は、心理的・身体的に非常に不安定な思春期にあります。「大きな子ども」であると同時に、「小さな大人」でもあるのです。この両面を子どもの状況に応じて指導する必要性から、中学校教育の内容は複雑で曖昧なものとなりやすい性質を持っているのです。