記念特集 中学校教育のこれまでとこれから
VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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世界に広がっている「市民性の教育」を日本にも

 「学びの動機付けの装置」と「社会化の装置」に、新たになり得るものは何か。私は「市民性の教育」(図2)だと考えています。今、ヨーロッパ各国で取り入れられ、シンガポールなどでも始められている教育体系です。
図2
 イギリスでは、2002年から公立中等学校で「市民性の教育」が必修になりました。政治や法律を含めて教科を横断する形で、座学だけでなく、具体的に社会参画していくフィールドワークやボランティア活動、コミュニティサービスを経験しながら市民性を培っています。この過程で、ものの見方や考え方、情報の集め方、選択の仕方、まとめ方、討論の仕方なども学びます。日本の「総合的な学習の時間」と似ていますが、その「主権者教育版」といってよいでしょう。
 こうした学習形態は、ほかの教科学習よりも「参加型の学習」が中心となります。体験を通して知らないことを学び、行動を起こし、認識が深まり、自分の幅が広がる――そうした学びの動機につながるサイクルが生まれるのです。
 また、「市民性の教育」では、いろいろな世代、さまざまな職業、自分と違う人々と関係を持つことができます。学習を通して、社会性も養われるのです。例えば、東京都には、高齢者福祉施設と保育園、中学校が一体となった複合施設があります。ここでは、異世代間交流による参加型の学習が自然に実践されています。こうした展開が、学びの動機付けの一つの装置として働く可能性があるのではないでしょうか。
 日本の学校では、「市民性の教育」にあたる「環境教育」「消費者教育」「キャリア教育」「法教育」などを、「社会科」「道徳」「特別活動」という既存の教科にそれぞれ当てはめて行っています。しかし、次代の社会の構成員を育てていく教育にするためには、それらを統合して一つの教科にすべきではないかと考えています。
 ただし、学校だけで「市民性の教育」は実現できません。学校のまわりに地域があるのではなく、「地域の中に学校がある」という視点に立った、学校と地域の水平・対等な協力が求められます。明治以来140年もの間、官主導の中央集権型の社会システムが続いてきたため、地域主体で物事を進めようとしても難しい点があるのは事実です。
 小さなトラブルを一つひとつ克服しながら成熟させていくしかありません。とりわけ、教育の中心的役割を果たす学校は重要な位置付けになります。

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