ゆふ・さわこ◎東京女子大卒業。埼玉県で中学校教諭として勤務した後、東京大大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。福岡教育大教育学部教授などを経て、2008年から現職。専門は教育社会学、教師論。著書に『転換期の教師』(放送大学教育振興会)など。
早稲田大大学院教職研究科教授
油布佐和子
新しい学習指導要領への対応、ベテラン教師の大量退職による技術継承の問題、公教育の意義の問い直し――。 現在、中学校現場には数多くの課題がある。その中で、これからの中学校教師には何が求められるのか。 早稲田大大学院教職研究科の油布佐和子教授にうかがった。
公立中学校という教育段階の意義を改めて考えると、最も重要なことは、それが「公教育」であることではないでしょうか。公教育とは、家庭階層を問わず多様な子どもが共通の教育を受けられること、そして、高校・大学へと進んでいく可能性をすべての子どもに与えることです。1960年代までは、教育機会が均等にあることの公教育の意義や喜びが、社会において実感されていました。しかし、経済的に豊かになった今、それがあまり感じられなくなっているようです。 1970年代には中学校で校内暴力の嵐が吹き荒れましたが、それは学校と社会とのずれが生徒の心の中に積もり、顕在化したのだと思います。ところが、今や中学校は、生徒が乗り越えたり、ときには壊したいと思うことすら少ない状態になっているようです。特に東京都などの大都市では、目的意識の高い家庭の子どもの多くが私立の中高一貫校に進学しています。ますます公立中学校の存在意義が問われているのです。これが、今の中学校教育が抱える最も大きな課題だと考えます。 しかし最近の教育改革は、この課題を解決するというよりは、むしろ学校現場の混乱に拍車をかけている面があるようです。公立中学校でも学校選択制を取り入れている地域がありますが、それは公教育の趣旨とは少し違うと私は思います。 変わりゆく社会に対応しようと、教育政策が次々と打ち出されています。社会の変化に応じて教育が変わっていく今だからこそ、公教育の意義を改めて捉え、教師がすべきことを考える必要があると思うのです。