ベネッセ教育総合研究所 ベネッセコーポレーション
学習意欲を持たせる4つの動機づけ
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学習意欲を持たせる4つの動機づけ
 2番目に、子どもの成長発達の具体的な姿、別の言葉でいうと教育を通じてどういう子どもが育ってほしいかという願い、ねらいをきちっとしていくということです。「関心・意欲・態度だけが育てばいいのか、知識・理解・技能だけが身につけばいいのか」これも素人論議です。関心・意欲・態度も必要だし、知識・理解・技能も要る。あるいはそれをつなぐものとしての探究・追究の力、いわゆる思考力的なものが要る。このことを教育界全体が認識し、これが実現するような指導計画の立て方、具体的な授業の展開の仕方を工夫しなければいけない。これは言うは易しで、実際は簡単ではない。
 私どもはよく学習意欲を育むために4つの内発的動機づけを考えていかなければということを言ってきました。
 (1)まず、「面白いからやってみよう」という動機づけ。つまり、活動や教材を楽しいもの、面白いものにしていくことです。
 (2)次に、「大事だから」という動機づけ。
 小学校もだんだん学年が進むに従って、どの活動、どの教材も楽しく面白いものにすることは無理です。新出漢字が出てきたら、面白いと思っても思わなくても覚えなくてはならない。「これはとっても大事だから、明日までに20回ずつ書いてこようね、ちゃんと書いてきたかどうか見るからね」でなくてはならない。かけ算九九もそうですが、「面白かったら覚えてみようか」では、だれも覚えようとはしない。「明日までに4の段まできちっと言えるように、家でちゃんと練習してこよう。明日先生が確かめるからね」これが必要なんです。
 (3)3番目の動機づけは、「やりがいがあるから」「自信が持てるから」というもの。
 この動機づけが成り立つためには、子どもが一つひとつ着実に、「これもやれた」「これもわかった」と思えるような教材や活動の組み立てにしていかなければいけない。つまり、学習活動の途中に達成感があり、それにともなう効力感があり、そして、それが「わたしだってやればやれるんだな」という有能感に結びついていくようなものにしていく。
 (4)しかし、小学校の高学年から中学生になると、それだけではすまない。「面白いから」「大事だから」「やりがいがあるから」でやれる部分はかなりありますが、どう工夫してもその3つに当てはまらないものが出てくる。そこで、4番目の動機づけは、「しなくてはならないことは逃げずにやろう」というもの。これをコーピングといいます。cope with(コープ ウィズ)という英語があり、対処性と訳します。つまり、せねばならないことは、ぐずぐず言わずに受けて立つぞという気持ち。思春期から青年期にかかる段階でこれを身につけるということは極めて重要なことだと思います。なんでも面白くないとやらないとか、大事さがわからないとやらないとか、やりがいがなければやらないということでは、人生やっていけないでしょう。
 よく結婚式で「愛し合って二人は結婚します」なんてことを聞くと、嫌ですね。そんなことを言うから、愛がなくなったら離婚するんです。本来は、「この人と結婚するのが運命だったら、その運命を受けて立とう」と思って結婚しなきゃいけない。長い人生にはいいときもあれば悪いときもあるんです。愛なんかじゃ結婚はできないんです。ニーチェが言っているように自分に与えられた運命は愛さなければいけない。私はクリスチャンですが、クリスチャンの基本的な結婚観はそうなんです。神に与えられたものなんです。とんでもない人を与えられることもあります、それはキリスト教では、「自分の十字架を担って生きていかなければいけない」(笑)と言うのです。若い人はまだわからないでしょうが、だんだん身にしみてわかるようになります。
 仕事でもなんでもそうです。
 (1)~(3)の動機でカバーできる部分は非常に少なくなる。私も長く、いろんなことをしました。11年間、事務職と同じようなこともしました。今の国立教育政策研究所ではほとんどそんなトレーニングはしませんが、私が勤務していた当時は、研究員であると同時に事務官であり、しかもいちばんの若輩だったので、年間5つも10ものプロジェクトについて概算要求を出さなければならなかった。お陰で、報告書を書いたり概算要求をしたりという仕事は非常にうまくなりました。
 実は私が好きなのはベッドと本棚だけの自分の部屋に籠もること。胎内回帰ですね、お母さんのお腹の中に帰ったような。近くにコンビニさえあれば、そこに2日でも3日でも4日でも籠もって充足しています。そのように個人的な思いがあっても、残念なことに、それでは仕事にはならないから、自分の嫌いな、あるいは自分には向かないと思っている、不得手な、それをやるだけでも疲れてしまうような、そういう仕事を、日常的に8割9割、していると思うんですよ。「自分の運命だから、受けて立たねば」ということでしょう。
 人事は「ヒトゴト」って読む。会社によっては、「この部署でこれがやりたい」という気持ちがわりと受け入れられることもあるかもしれませんが、ふつうは、辞令一つで、どこにでも行かされ、不本意な仕事もさせられる。私も、研究者にしてはいろんな仕事をやらされてきました。京都大学では4年間かかって一つのセンターを立ち上げしました。たった一人で行って、人材と予算を確保しなくてはならない。4年でやっとメドがついたら、今の仕事をすることになった。学校経営のようなものは私には向きませんが、運命は受け入れなければならない。
 
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