VIEW21 2000.9  指導変革の軌跡 山形県立米沢興譲館高校


多彩な指導内容を
新たに組み込んだとはいえ、メインは教師の個別指導だ。
 共通のテキストとなる『現代を考える―関心・思索・表現―』は'96年に同校が制作したオリジナルである。最近の小論文入試の出題傾向や時事問題を考慮して、'99年に改訂を行った(掲載テーマは下の表を参照)。
 B5判の冊子には、小論文の出題傾向分析、学問系統別の頻出テーマ一覧、基礎講座編6問、要約練習編3問、実践演習編8問が載っている。実践演習編では、実際に小論文を原稿用紙に書き、それとは別に①主題 ②序論・書き出し ③本論 ④結論 を箇条書きにした「構想表」も添付する。生徒がどのような考えの下に小論文を書いたのか、添削の手掛かりとするための工夫がなされている。
 「6月にこのテキストと原稿用紙を受講生に配布しました。今後は、本テキストのテーマから自分の志望大の出題傾向に合わせて課題を選び、最低でも月1本のペースで小論文を書くよう指導していきます。しっかりと基礎力を身に付け、センター試験が終わってから過去問などで個別の対策をするという段取りになっています」(曽根伸之先生)
 曽根先生自身は、一昨年の3年生を受け持った経験から「書く量と実力は比例する」と考えている。ボーダーラインぎりぎりだった生徒が、1月から2月の第1週まで本テキストを使って10回の添削指導、2月の第2週から後期試験まで20回、過去問を使って添削指導を受けた結果、志望大に合格したからだ。
 しかし、テキストの使い方は、指導担当の教師、生徒個人に任される。先生によっては生徒数名によるディスカッションや相互評価をさせる場合もあるし、生徒自身のペースで課題をこなせばよしとする先生もいる。

教師と生徒の
マンツーマン指導だからこそ、きめ細かく対応できる。そのメリットを活かした指導をするため、後藤先生は、最低でも1回、生徒によっては数回、担当教師を変えていくつもりだ。
 「本校の生徒は学力水準が高く、真面目な子が多いのですが、文章を書くと画一的でつまらないものになってしまう。いわゆる『優等生の意見』になりすぎるきらいがあるんです。それを改善するためには多様なものの見方を教えていく必要があります。複数の教師が担当し、『こういう見方もあるんだよ』と教えてあげるのが一番だと思うのです」(後藤先生)
 生徒の知識・考え方が浮き彫りとなる小論文は作文や感想文と違い、「国語科」だけの枠に収まるものではない。出題テーマも、地歴、公民、理科、家庭科など、多方面に渡っている。他の教科の先生方には文法や誤字・脱字などよりも、各先生の専門性に基づいて内容面をよく見てほしいと後藤先生は考えている。
 「委員会メンバーの16人だけではなく、他の先生方の協力も不可欠です。年度初めの職員会議ですべての先生方に、小論文指導に協力してほしいとお願いしました」(後藤先生)
 この呼び掛けに応えて、生徒の小論文指導に直接的に協力するだけでなく、定期テストにも論文形式のテストを取り入れる先生も出てきた。
 だが、指導を依頼した先生から「小論文の基本的な書き方ができていない生徒がいる。ちゃんと事前指導をしているのか」といった意見が寄せられることも少なくない。「添削評価の基準」をすべての先生方に渡してあるのだが、それがあるためにかえって生徒の基礎力の低さが浮き彫りになる。
 「1、2学年から系統立てて小論文対策をしていきたい」
 ここ数年、年度末の小論文指導委員会の反省会で出る意見だ。しかし、これ以上の負担を先生方に強いるわけにはいかない。できる範囲でいいから何かをしていきたい、しなければならないという思いが、小論文指導委員会の間で募っていた。

『現代を考える』のテーマ一覧
『現代を考える』は小論文指導用テキスト。
基礎講座編
国際化   現代文明★  高齢者福祉
教育問題  環境問題   医療★
実践演習編
国際化・比較文化  ことば・言語★   いじめ★
高齢化と家族    教育問題      環境問題
科学・科学技術   コンピュータ★
★印は'99年度改訂で追加された項目

まだある参考にしたい取り組み
漢文音読
米沢興譲館高校は米沢藩の藩校という古い歴史を持っている。本校の伝統的な学習に、「漢文音読」がある。「音読のすすめ」というテキストにある20ほどの漢文を音読する。すらすらとつっかえずに読め、内容についての質問に答えられれば合格。1~3年までの間にすべてを終わらせることは卒業への必須条件だ。休み時間や放課後になると、校内にはあちこちに国語の先生をつかまえて音読のチェックを受ける生徒の姿が見られる。ちなみに一番最初のページは1777年(安永5年)に制定されたという「弟子職」なる学則。かつての先輩は暗唱したそうだ。

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