表現学習を軸とした具体的取り組み例
表現学習と一口に言っても、様々なパターンや切り口が考えられるが、 ここでは進路学習や小論文学習、さらに情報学習とリンクした取り組みについて、例を挙げながら考えてみる。
パターン(1) 表現学習
テーマ例 ● 友達に自分の家までの地図を書いてもらおう
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〈取り組み〉
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学校から自宅までの道順を文章で表現。それを基に友達に地図を書いてもらう
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〈学習目標〉
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・表現学習の導入として、文章で相手に自分の意図を伝えることの難しさを理解する
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・自分の意図をうまく伝えるための思考力、表現力を身に付ける
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「表現力を身に付ける」と言っても、生徒にはどういった状態が表現力が身に付いた状態なのか、そもそも表現力とはどんなものなのか分かりにくい。
ここでは、自分の書いた文章を基に、他の生徒に地図を書いてもらうという表現活動を生徒の最終目標にした。第三者がアウトプットする取り組みであれば、生徒はどうすれば意図が伝わるか真剣に考え、伝わらない場合はどこが悪かったか振り返るだろう。文章を書く→それを基に友達が地図を書く→地図を見て、意図が伝わらなかった部分の文章を訂正する→友達が地図を訂正する、というやりとりを繰り返す中で、どう表現すれば自分の意図が伝わるのかを自然に学び取ることができる。
2人1組にして正確な地図ができるまでの時間を測り、クラスやグループで順位を競わせれば、一層ゲーム性が増し、生徒がこの取り組みに乗ってくることも考えられる。ゲーム世代と言われる今の生徒には、このような遊びの要素の導入は効果的だろう。
パターン(2) 表現学習×進路学習
テーマ例 ● 学問新聞を作ろう
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〈取り組み〉
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関心のある学問について、中学生を対象にした新聞を作る
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〈学習目標〉
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・興味の持てる学問を見つける
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・その学問についての見識を深めていくことによって、本当に自分が学びたいことは何なのか再確認する
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・自分以外の人に、自分の考えや調べたことを分かりやすく伝えることで表現力を身に付ける
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・パソコンを活用することによって、メディアリテラシーを身に付ける
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従来の進路学習、例えば学問研究の場合では、自分の興味のある学問は何か考え、それについて詳しく調べるという手法が主流であった。しかしこの場合、学問になかなか興味を持とうとしない生徒にとっては、なじみにくい取り組みに感じられる恐れもある。その結果、主体的に取り組む生徒とそうでない生徒との格差が大きくなってしまうという状況が見られることが多かったのではないだろうか。
そこでここでは、学問研究という本来の目標を前面に出さずに、新聞を作るという表現活動を生徒の最終目標に設定した(※表4参照)。生徒にとっては「学問研究をしよう」という課題を与えられるのではなく、「中学生を対象とした学問新聞を作ろう」という課題設定なら、なじみ易い取り組みに感じるはずだ。中学生向けの新聞を作る行為は、自分の調べたことや考えを咀嚼(そしゃく)し分かりやすく伝えることを促し、より深い理解にもつながっていく。同じ学問に興味を持つ者同士がグループになって取り組めば、さらに盛り上がるだろう。
このように教師は本来の学習目標を表には出さないことになるが、生徒が学習目標に近付くための誘導はしていきたい。「中学生に分かりやすくするためには、どのようなことを盛り込まなくてはならないか」「どのような構成にすればいいか」などの観点を与えていきつつ、「その学問はどんなことを学ぶのか」「学んだことが活かせる職業は何か」「その学問を学べる学部・学科にはどんなものがあるか」という研究ステップを、生徒が踏み外さないよう配慮することは必要だろう。
なお、新聞を作って行く上でパソコンを活用するプロセスを組み込めば、メディアリテラシーの育成にもつながる。新聞を作るという目標は、生徒のパソコンに向かう動機付けにもつながるため、より多くの生徒が主体的に情報学習に取り組めることになるだろう。
※クリックすると、表4を見ることができます。
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