VIEW21 2000.10  新課程への助走
 新課程に向けた教科指導を考える

 ベネッセ文教総研の調査によると、'02年度カリキュラム作成には各校とも予想以上に苦慮しているようだ。その最大の理由は、学校完全週5日制への移行による授業時間の減少に対して、「現状よりも授業時間数が減少した場合、大学進学において必要とされる学力の維持、向上は難しい」という不安が多くの教科で生じている点にある。
 '03年度からの新課程では、「総合的な学習の時間」が新設される。「総合的な学習の時間」の創意工夫に満ちた活用が生徒の学習意欲を喚起し、結果的に学力向上にもつながるのではないかという期待の反面、教科指導時間の減少による生徒の学力低下は避け難いという不安の声も多い。これが現状の「総合的な学習の時間」検討への消極的な姿勢につながっている一因のようにも思われる。
 '02年以降の様々な教育環境の変化の中で、各教科の担当教師が教科指導をどのように考え、そして工夫していこうとしているのか。アンケート調査結果に基づいて分析する。

現状の指導法では新課程後の対応は難しくなる

 アンケートでは最初に「新課程では高等学校での教科指導に見直しが必要か?」という意見に関する見解とその理由を質問した。
 質問1(図1)では、「新課程の変化に合わせて多少の工夫は必要となる」を選択した回答者が最も多い。「抜本的な教科指導の見直しが必要となる」を合わせると、8割以上の教師が新課程では何らかの形で教科指導のさらなる工夫や見直しが必要であると回答している。今後、高校における教科指導が一層難しくなっていくのではないか、というのは現場を担当する教師の共通認識のようだ。
 また、回答者の9.6%が様々な変化を理解しながらも、あえて「基本的に大きな変更は必要ない」を選択している。その理由は主に二つあった。
 一つ目は、「教育課程が変わろうとも、高校生として学ぶべき基礎・基本は不易であり、高校における教育の骨組みは変わらない。制度等の変更にいちいち振りまわされてはならない」という毅然とした考え方である。
 二つ目は、「大学入試は変わらない(入試改革は遅々として進まない)。入試で要求される学力が変わらない以上、指導すべき内容もまた変えようがない」という捉え方である。高校現場では入試改革は、大学が思っているほど進捗しているとは受け止められていないようである。
 これは、新課程の変化を意識するあまり現状の入試対応から乖離した指導になるのではないかという懸念であり、加えて新課程生(中学で新課程を学習してきた'03年度入学生)を直接指導してみないと実際のところは判断できないという意見でもある。すなわち、工夫不要論というよりも変更慎重論と言えるだろう。

「総合的な学習の時間」や他教科との連携が
今後の指導のポイント

 質問1の結果からは、ほとんどの教師が現状の教科指導のままでは新課程への対応はかなり難しい、と考えていることが分かった。では、そのように判断した理由は何であろうか。
 質問2(図2)の「教科指導の見直しの必要を感じている理由」への回答は、(1)(2)(4)の3項目に集中した。すなわち、「新課程における中学校での教科学習が大きく変化する中で、大学入試に必要とされる学力レベルは、それほど変わらないのではないか……。しかし、そのギャップを埋めるために必要な高校での指導時間は確保できない」という現実への危機感であることがはっきりした。
 不安や危機感からか、全体的に今回の教育改革を否定的に捉える声が多かった。しかし、質問1に対して、「抜本的な見直しが必要」を選択した教師の中には、今回の改革を比較的肯定的に理解している点が目立った。
 「従来の学校教育の歪みが具体的な形で噴出している現実を踏まえて新課程を立案したのであれば、抜本的な改革は当然である」(長野・国語)
 「真面目な教師はこれまでもきちんと指導をしてきた。しかし、様々な理由から、現状の生徒の表現力などはさんざんなものである。新課程での変化を機に、指導の抜本的な見直しを行いたい」(長崎・国語)
 「生徒が変化している。教師側の生徒への認識をかなり変える必要がある」(佐賀・英語)

 このように、教育環境の変化の厳しい実態を理解した上で、現状の様々な課題をより良い方向へ変革する好機として、新課程を捉えたいという姿勢が見受けられる。
 同様に質問2で、「(3)『自ら学び自ら考える』『コミュニケーション能力の向上』を重視する」を選択した理由としては、「非常に難しい指導テーマではあるが、工夫によっては、この面での成長が今までとは違う形で教科学力の向上につながるのではないか」という期待からだろう。「(5)『総合的な学習の時間』の導入」に関しても、「総合的な学習の中身を工夫して、教科学習の深化に活かす方向で考えることが必要ではないか」(山形・国語、長野・理科)との指摘が、教科を越えて見受けられた。


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