VIEW21 2000.10  指導変革の軌跡 滋賀県立膳所高校

膳所高校の
理科における実験・実習重視の考え方は、近年になって急に生まれたものではない。夏休みの恒例行事である地学実習旅行は'63年、生物実習旅行は'68年からスタートして、現在まで脈々と続いている。地学実習旅行とは1、2年生を対象に参加者を募り、3泊4日('97年までは4泊5日)で富士山や浅間山、草津白根山周辺を歩き、火山地形や溶岩の観察、温泉の水質測定実習などを実施するもの。参加人数は年度によって変動があるが、この10年では多い年で約50名、少ない年でも約20名が参加している。同校がある滋賀県には活火山がない。そこで実習は生徒たちに、活きた火山や火山噴出物などを自分の目で観察させることを目的としている。旅行計画や切符の手配、訪問先での生徒へのレクチャーなどは、すべて担当の教師によって行われる。
 地学の岡田浩二先生が初めて地学実習旅行に同行したのは、同校に赴任した'91年のこと。浅間山や富士山は、滋賀県から頻繁に下見に行ける場所ではない。最初の3年間は、同行した地学の同僚教師の現地での説明を聞きながら、生徒と一緒にメモを取り知識を蓄えたという。
 「今では私自身ベテランになって、生徒には大体のことを話せるようになりました。例えば天明3年に浅間山が噴火しましたが、火砕流が起きた場所を何気なく歩いているだけでは、生徒は何も学ぶことができません。そこで私は、生徒が雄大な風景を単に美しいと感じて終わるのではなく、岩石の一つ一つに学問的な見地からアプローチしていくことの面白さを伝えることを一番に考えて解説をしています。旅行気分で参加する生徒も中にはいますが、そんな彼らの態度も、少しずつ変わっていくんです」
 一方、生物実習旅行の訪問先は、上高地や乗鞍岳を中心とした信州の山岳地帯。高山植物や自然林、野鳥の観察などを行う。滋賀県の最高峰は伊吹山の1377メートル。3000メートル級の山々の動植物に触れるのは、生徒にとって貴重な機会だ。やはり引率した教師がそれぞれの場所で植生の様子や草木について説明を行う。生徒は教師の話を聞きながら草木のスケッチをしたり、写真を撮っていく。生徒は頭で覚えていた自然に関する知識を、実際に野山を歩く中で、身体で会得した知識へと変えていく。
 「生物実習旅行は、生きた環境教育の場にもなっていると思います。上高地や乗鞍岳では、ずいぶん前から草花の採取が禁じられています。自動車の排ガス規制もなされており、自家用車の乗り入れが禁止されている地域もあります。生徒たちにとっては、ハイマツが枯死している様子を自分の目で見ることで、環境を守るにはどうすればいいかを、考えるきっかけにもなると思います」(生物科・芳賀彦一先生)
 ただし、'63年以来延々と中断されることなく長い間続けられてきた実習旅行は、今曲がり角に来ている。'96年度にカリキュラムの見直しで生物と地学が選択科目になってから、まず授業の履修者が減り、その影響を受けて旅行の参加者も減少傾向にある。特に地学の置かれている状況が厳しいそうだ。だが理科では、実習旅行をなくすことは考えていないという。
 「実習旅行で生徒が得るものは大きいですからね。将来は『総合的な学習の時間』に組み込むことも考えています。もちろんそうなると参加人数が大幅に増え、教師側がそれに対応した指導ができるかなど、いくつか乗り越えなくてはいけない課題はありますが…」(渕田先生)

写真 生徒のレポート
実習旅行の最中、生徒たちがノートに残したメモやスケッチ、撮影した写真は、旅行後提出が義務化されているレポートに、存分に活用される。



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