VIEW21 2000.10  指導変革の軌跡 愛知県立一宮西高校

 7月、夏の蒸し暑い空気が漂う中、進路指導室では、恒例の進路検討会が行われていた。進路検討会とは、学年団に進路指導主事を交えて、生徒一人ひとりの適切な進路指導について話し合う会である。'00年度は1学年は9月と2月、2学年は4、9、2月、3学年は4、7、9、12、1月に設定されている。
 3学年の進路検討会では、大テーブルを囲む教師の手元に、紙の厚い束が用意されている。3学年8クラスの生徒全員分の、1年次からの成績表だ。定期試験と実力考査の教科別の得点が、生徒ごとに一覧表となっている。一見すると、それは数字の羅列でしかない。しかし、得点の推移から生徒一人ひとりの性格や弱点を読み取ることができる、と進路指導主事の伊藤和明先生は言う。
 「数字から推理し、判断できることは意外と多いんです。例えば、Aさんは定期試験の成績は良く、真面目に授業を受けている努力家。しかし、実力考査は少し弱い。2学期からは応用力を付ける必要があります。B君は実力考査、中間試験が良かったことに安心して期末試験が下がっています。2学期は気合いを入れて勉強させる必要があるということが分かります」
 一覧表には、生徒に対するクラス担任や教科担任の所見が書き込まれている。授業中の様子、進路希望、保護者の意見……。1年次からの生徒の足跡をつかむことができる。まさに、オリジナルの「進路指導カルテ」だ。

このカルテを利用して、
授業で、クラス担任として、部活動で、いろいろな場面で接している教師が、その生徒に対する意見を出す。
 前の進路指導主事で、現在は教務部主任の山田裕先生は、進路指導の特色をこう語る。
 「本校では偏差値だけで志望校を選ぶような指導はしません。単に合格圏内の大学を薦めるのではなく、その生徒の将来にとって、その大学へ進学することが良いことだと確信した上で、指導します」
 大学新卒の就職難の影響から、将来に備えて大学で資格を取りたいと思っている生徒は多い。しかし、志望が本人の適性に合っているのか疑問符が付く場合もある。化学の成績が低いにも関わらず、薬剤師の資格を取りたいと言う生徒。この生徒にとって、薬学部で過ごす数年間は、苦痛に満ちたものになってしまうかも知れない。
 「適性に合った目標が定まれば、生徒はどんどん伸びます。現時点での成績では合格が難しいと思える大学でも、本人が本気で目指し、不合格でも後悔しないという覚悟があるなら、教師が諦めさせることはしません。逆に、本人に合っていないと思える大学を志望する生徒には、本人が強く志望していても、もう一度考えるように指導します」(山田先生)
 この方針を教師全員に徹底させるため、進路指導部は時に、クラス担任や教科担当と激しい議論を戦わせる。
 「考え方や経験の差から、進路指導のレベルに差が出てしまうのは仕方がありません。しかし、学校としての方針は統一性を持たせなければなりません」(山田先生)
 進路指導部として、進路指導に関しては一般の先生方を一歩リードする経験と情報を持っているという自負もある。「カルテ」が示す生徒の性格とこれからの課題、教師の所見、本人の志望と、様々な情報から導き出される指導方法を、検討会は伝える役割も果たす。
 「担任の先生の許可を得てから、進路指導部が直接、生徒と面談することもあります。伸びようとする意欲の感じられる生徒には、積極的に働きかけていきたいですから」(伊藤先生)

写真 進路検討会
進路検討会は、生徒の進路を考えるだけでなく、気になる生徒に対して、担任、教科担当が共通の認識を持つ場としても重要だ。指導の足並みを揃えることもできる。



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