VIEW21 2000.10  創造する 総合的な学習の時間

進路指導の大まかな流れ

1年次は「知る」
2年次は「考える」がキーワード

 では、実際にどんな活動を行っているのか。各学年で取り組みの内容がやや異なるので、ここでは吉田先生が担当した'99年度卒業生の例を中心に、他の学年の事例も若干交えて見てみよう。
 1年次は「自分を知る」「職業を知る」「大学を知る」「社会を知る」と、「知る」をキーワードに活動していく。
 「中学校から入ってきたばかりの生徒に、自分とは何か、高校生としてどんな存在なのかを考えさせ、同時に社会に広く目を向けさせることを主眼にしています。『大学を知る』の一環としてオープンキャンパスにも参加します。2年次からの行事にしている高校も多いようですが、大学とはどんな所か早目に実感させるために行っています」
 また「知る」ために必要な情報収集の方法論とその重要さも1年次で学ぶ。具体的には、4月に「私の人生設計図」のレポート、7月にオープンキャンパス参加と事前・事後レポート、8月に職業研究として身近な人(家族・親戚・近所の人など)への職業についてのインタビューとレポート、12月に卒業生による職業についてのパネルディスカッションとレポートなど、書かせる場が多い。だが、1年生の場合、書かせる文章はさほど長くなく、内容も高いものを求めない。あくまで生徒に、十分な情報収集なしには「知る」ことも、そして「表現する」こともできないということを経験させるためのものだからだ。そのため「感想文レベルで、1時間程度で書き上げられて、内容も重くならないものばかり」(吉田先生)となる。
 2年次は大学研究、学部・学科研究が中心。クラスを解体して志望する学問分野別に九つのグループに分け、生徒はそれぞれのグループで大学の研究内容や施設・設備に関する資料収集、オープンキャンパス参加、レポート作成などを行う。各学期の終わりには、それまでの活動を振り返って800字の小論文を書く。
 「2年次では積み上げた知識を基に自分の考えを育て、一つの意見にまで高めます。感想文レベルだったレポートも、少しずつ小論文レベルに近付かせ、最長2000字の長さになります」
 さらに2年次には、中国への修学旅行の事前・事後レポートも書かせる。
 3年次になると、受験を意識した小論文指導(希望者参加)に切り替わる。入試科目に小論文が入る可能性が少しでもある生徒は受講するよう指導しており、文系の生徒のほとんど、理系も半分近くの生徒が受ける。

書くことを通して自分を知り、他者を知る

 「書く」学習の意義を吉田先生はこう語る。
 「書くことで初めて見えてくるものがあります。頭の中でぼんやりと考えてはいるけれど、はっきりしないもの。書くという行為は、それに自分なりの具体的な言葉を付与して輪郭を与える作業です。人の文章を読んだり、話を聞いて『うまく言葉にはできなかったけど、自分もそう思っていたんだ』ということがありますよね。その過程を一人でたどるのが書く作業です。そうやって自分の考えを捉え、意識できれば、今度は他者の考えもくっきりと見えてきて、自分の考えと比較対照できます。自分が見える、そして他者が見えるという二つの効果があるのです」
 大切なのはとにかく慣れさせることと吉田先生。最初はごく簡単なものから、ことあるごとに書かせることで、抵抗感を徐々に取り除いてやれば、生徒は書くことを嫌がらなくなると言う。
 書いたものの評価には、生徒の相互評価を取り入れている。あらかじめ示した評価基準(論旨は明確か、分かりやすい記述か、個性的か、など)に沿って生徒同士で文章を採点し、優秀作品を生徒自身に選ばせる。作品全部をチェックするのではなく、生徒から上がってきた優秀作品だけ目を通すので、担任の時間的負荷はかなり減らせる。
 「担任がすべてを背負わないこと。それが成否を握るカギの一つです」


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