VIEW21 2000.12  新課程への助走
 新課程に向けた教科指導を考える

東京学芸大学教育学部附属高校の実践

教科間を超えた教師組織で
全教科に役立つ情報教育を実践

 '99年度から第1学年の必修科目として「情報」の授業をスタートさせた東京学芸大学教育学部附属高校。文部省教育課程指定校ではあるが、同校の「情報」の授業は、教師たちの自発的な組織から生まれた取り組みである。新課程への先行的な試みとして注目される同校の実践と、浮き彫りになった「情報」の授業の課題を探る。


まず教師がコンピュータの有用性を知る

 東京学芸大学教育学部附属高校にインターネットが導入されたのはおよそ6年前、'95年のこと。今でこそ約120台の端末があるが、当初は5台。貴重なパソコンは「生徒も教師も出入りできる場所」ということで特別教室に設置された。しかし、「これが大失敗でした」と、同校の情報教育を中心となって進めている川角博先生は振り返る。
 「当時はやっとパソコンが一般家庭にも普及し始めた頃で、インターネットも電子メールも今ほど発達していない頃でした。パソコンに触るために、わざわざ特別教室に行くなんてことは誰もしなかったのです」
 そこで、ともかく当時インターネットに接続可能だった5つの教官室の机の上にパソコンを移動させた。すると、これが大正解。パソコンを置かれた教師は、授業で使う資料を集めるためにインターネットを使い始めたのだ。そして、教師同士のメーリングリストを作成し、教科の指導法などの情報交換をするようになった。
 「パソコンを使えば、手に入りにくい授業の材料を集めることができるし、情報交換もしやすい。教科をよりよく教えるためにコンピュータが良い道具になることを、教師が実感したんです」
 教師が使いこなせるようになると、コンピュータを利用した指導法が提案されるようになった。例えば、生徒に手書きで提出させていたレポートを電子メールで提出させ、ホームページに掲載しよう、というアイディアだ。従来、レポートは教師と書いた生徒しか見なかった。しかし、ホームページ上で「公開」することで、生徒は同じ課題で他の生徒がどんなレポートを書いたかを閲覧することができる。見識を深められるだけでなく、レポートが他人の目に触れるとなると、生徒はいい加減なレポートを書けない。
 「情報」の授業が根付く大きな要因となったのは、各教科の教師が「コンピュータが自分の“教科”に使える」と実感したことだと言えるだろう。


写真 川角 博
東京学芸大学教育学部附属高校教諭
川角 博
Kawasumi Hiroshi
教職歴20年。同校に赴任して6年。物理担当。校内教育工学委員会委員。

東京学芸大学教育学部附属高校
1954年(昭和29年)創立。普通科の共学校。生徒数は約1000名。'00年度入試の合格実績は東京大86名、一橋大13名、慶応大122名、早稲田大102名など。アメリカへの留学生の派遣やタイからの留学生の受け入れなど、国際交流も盛ん。なお、同校の「情報」の授業についてはホームページで詳しく公開している。
http://www.gakugei-hs.setagaya.tokyo.jp


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