教師の自主組織が「情報」の運営をサポート
こうして、同校で「情報」の指導が始まる。しかし、正式な単位としてではなく、予算も人員も配置されない、従来の教科指導の授業を削ってのスタートだった。授業運営を支えたのは「教育工学委員会」と呼ばれる自由参加の分掌、言わばボランティア組織の教師だ。
「メンバーの担当教科は国語や英語、地歴・公民、物理や化学、家庭科、美術・工芸とばらばらで、コンピュータの専門家でもありません。でも、自分の教科の指導にネットワークの利用を考えている人が多かったと思います」
それぞれが担当教科の授業の中で、パソコンの指導を始めた。生徒全員に電子メールアドレスを配布し、休み時間や放課後、自由にパソコンを使えるように、コンピュータを空いている教室に設置。校内にコンピュータのネットワークを張り巡らせた。
「『国立の学校は設備が整っていていいですね』と言われるんですが、とんでもない。企業に頼んで廃棄処分するコンピュータを譲ってもらったり、夜中に配線工事をしたり……。ほとんどの設備は、教師が自分たちで整えていったんです」
まさに教育工学委員会の“手弁当”で実現した「情報」の授業。しかし、これでは教師の負担は増えるばかりで、教科授業への圧迫は免れられない。そこで、コンピュータの全教科への有用性が校内に浸透し、気運も高まってきた'99年度、第1学年の必須科目として「情報」(1単位)をスタートさせたのだ。
他教科を柔軟にサポートできるのは「情報A」
では、実際の授業はどのようなものだろうか(下記1)。
「本校での授業は新学習指導要領の『情報』を意識したものではありません。そもそも私たちは“他教科の授業にコンピュータを活かしたい”ということから情報の授業を始めましたから。ただ、『情報A』に近い内容と言えるでしょう。3つの分野の中で一番柔軟性があるのはAだと思います」
授業は、コンピュータの操作の仕方、電子メールの利用法、ホームページの制作など、実際にパソコンを使っての作業を中心に進めている。また、インターネットでのコミュニケーションのマナーや著作権の知識なども、大学教授といった専門家の講演会などを交え、日常的に生徒の意識向上を図っている。
「生徒による“チャット荒らし”や匿名メールのいたずらなどが発生し、学校側に苦情が来ることがあります。ただ、そうした生徒を呼び出して事情を聞いてみると、悪意があるわけではなく、コンピュータの初心者で面白くてやっているだけなんです。生徒は情報社会の当事者となって初めてネチケットなどについて理解できるのです。コンピュータの画面を非現実の世界と認識されては困ります。画面の向こうには必ず人間がいることを、生徒に認識させなければなりません」
テレビゲームに慣れ親しんでいる生徒にとって、コンピュータの画面はゲームの画面と同じ非現実的な世界と認識しやすい。そこで、3学期の授業では、ネットワークを使って、生徒同士で「情報」の授業を行うというグループ作業を取り入れ、画面の先には人がいるということを体験させている。
1 授業内容
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1学期
- ・コンピュータ室の使い方とマウスの練習
- ・ホームディレクトリの使い方
- ・電子メールの利用法と注意
- ・Webの利用(情報検索、画像のダウンロード)
- ・WWWページの設計と作成
- ・name plate imageの制作
- ・情報伝達における約束事について
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2学期
- ・統合ソフトの利用法(ワープロ、表計算、ペイント)
- ・著作権についての講演会
- ・プレゼンテーション用ソフトの利用法
- ・ネットワーク上のセキュリティーについて
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3学期
- ・総合実践(生徒による「情報」の授業の実施と評価、分析)
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