VIEW21 2000.12  指導変革の軌跡 福岡県立武蔵台高校

自分と同じ高校に
通っていた先輩が、何を考え、どんな道をたどって今の職業に就いたのか。同窓生の話に、生徒は親近感を持つ。同窓生に講師を依頼したことはそんな副次的な効果も生んだ。冒頭で紹介した美容室経営者も、実は武蔵台高校の卒業生。話は自分の高校時代にも及んだ。
 「正直言って、私も高校生のとき、将来何をやるかなんて、全く考えていませんでした。ただ、この仕事は親から言われたから決めたわけじゃない。仕事を選ぶというのは、親のため、先生のためではなく、自分自身のためだってことを一日も早く気が付いてほしいと思います」
 そんな言葉で話を締めくくり、講師が教室を出た後、その講師を高校時代に教えていた教師は生徒たちに話しかけた。
 「あの先生も、昔、私が数学を教えていたときは君たちと同じだったんだよ。今でこそ、あんなにかっこいいカリスマ美容師になったけれど、最初はカバン持ちから始めたんだ。君たちも頑張ればあんな風になれるんだぞ」
 たった1時間足らずの講話だが、生徒たちは様々なものをつかみ取ったようだ。警察官の話を聞いた男子生徒は、自分が抱いていた警察官のイメージとのギャップを口にした。
 「テレビドラマを見て、警察官ってかっこいいなと憧れていました。警察官は犯人を捕まえるだけが仕事だと思っていたけれど、逮捕した後にも仕事があったり、休みが少なくて大変だと聞いてびっくりしました」
 また、看護婦志望の女子生徒は講師の話を聞いて、大学進学に傾き始めたと言う。
 「専門学校に入れば看護婦には簡単になれると思っていたんです。でも、4年制の大学に入ってしっかり勉強してから、資格を取りたいと思いました。講師の先生は、子どもを産んで1度仕事を辞めたのに、『また看護婦の仕事がしたい』と思って職場に復帰したそうです。そこまで思えるくらいやりがいのある仕事っていいなと思いました」
 分科会に参加する生徒にアンケートを取り、講師にはあらかじめ質問項目を手渡すが、具体的な話の内容は講師に任せている。
 「質問項目には給与や仕事での失敗といった、大人なら聞き難いなと思うことまでありました。でも、講師の方はその質問を読んで、高校生に何を伝えたいのか、いろいろ考えてくださっているようです」(寺下先生)
 講師自身の体験から飛び出す話には、仕事の楽しさややりがいといった良い面だけでなく、残業や出世競争、給与などのシビアな面も盛り込まれている。そんな体験談を聞くことで、生徒は社会の厳しさや、仕事とプライベートな生活との兼ね合いといったリアルな現状を知ることになる。また、資格取得の方法や大学で何を学べばよいのか、といった自分の進路についても、具体的に固める必要性を感じ始めたようだ。

講師の職種


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