VIEW21 2000.12  特集 変貌する大学と入試

鳴島 私が所属している筑波大も、大くくりで募集しています。筑波大の人間学類には、心理学を勉強したいという学生がたくさん入学してきます。しかし、人気が集中するために、3年次で振り分けられるときに心理から漏れるケースもよくあります。
 一方で大くくり化していない大学もあるわけで、もしやりたいことを確実に学びたいなら、そういう大学に進めばいいわけです。「中間まとめ」に大くくり化を盛り込みましたが、すべての大学をそうさせようというのではなく、大学の多様化を促したものです。
藤井 本校では、1年次には学部・学科研究を行い、やりたい学問を見つけさせ、2年次で大学研究をさせています。高校側が学習する目的を持たせるために、「何がやりたいのか考えてみなさい」と懸命に進路指導に力を入れているにもかかわらず、大学の変化の方向が逆行しているとなると、戸惑ってしまいます。募集単位を大くくり化する大学が増えると、やりたい学問を一つだけでなく、第二志望、第三志望まで考えておきなさいという指導をしなくてはいけなくなりますね。
高田 募集単位の大くくり化ともう一点、特に医学部で顕著になってくると思いますが、社会人入試枠を増やし、その結果として学部定員が削減されるという問題があります。既に国立大医学部の中には、高校生を受け入れず、すべて学士入学枠にすることを検討している大学もあります。
村山 患者の立場で言えば大賛成ですね(笑)。ペーパーテストの点数がいいだけでは良い医者にはなれないと思います。それに、あまり深く考えずに高校を出てすぐ医学部に行くよりは、自分の適性などを見据えて選んだ方がいい。医者は人の命を預かる職業ですから、より人間性を磨く必要がありますよね。そのためにも、社会人や学部卒の学生を対象とした方がいいでしょう。

学習指導要領を越えた難問が出る可能性

高田 今、人間性という言葉が出ましたが、入試を考える上でやはりポイントになるのが、人間性や表現力、思考力など、ペーパーテストでは測りにくい能力をどうつかむかということですね。センター試験で導入が検討されている教科横断型の総合的な問題もその試みの一つでしょう。個別試験で総合問題の実施を考えている国立大が、全体の6割を越えるレベルにまで増えています。また筑波大ではAO入試を実施していますね。
鳴島 筑波大では、研究者として一番必要なのは探求心だと考えています。AO入試(筑波大ではAC入試と呼んでいます)で測ろうとしているのは、その探求心ですね。
 筑波大では一般入試60%から65%、推薦入試30%、AC入試5%から10%の割合で学生を採っています。推薦入学者は、学校長の推薦を受けるぐらいだから真面目で優秀です。ただ野性味がなくて、卒論などでは指示待ち人間になっていることが多いんです。その点AC入試合格者には、自分からどんどん積極的に動いていく学生が多いと言えます。天体観測の成果を天文学会で発表したとか、高校時代からすごいことをやっている人間が世の中にはいるんですよ。そんな学生のための試験がAC入試なんです。
 ただし私は、AC入試の定員は5%から10%くらいがちょうどいいと考えています。全体のバランスを考えてもそのくらいが適当だと思いますし、AC入試の選抜は、受験生が送ってきたたくさんの資料を丁寧に読み込んだりなど大変な労力がかかるので、物理的に限界があります。それにAC入試が求めているような学生も、世の中にそんなにたくさんはいませんからね。

図8 求める資質を各試験で計測できる度合い
図8 求める資質を各試験で計測できる度合い

大学人が学生に求める資質を、各試験問題がどの程度計測しているかを調べた。アンケート対象は、各試験問題を実施、あるいは実施予定の大学。
※ベネッセ文教総研「高大接続に関する調査」('00年6月実施)より。

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