VIEW21 2000.12  特集 変貌する大学と入試

高田 しかし、AO入試のような教科試験以外の試験形態が増えている一方で、「中間まとめ」には試験問題について、「学習指導要領を越える難問でも、一概には不適切とは言えない」という主旨の記述もありましたが。
村山 '00年度入試の東京大の物理の問題もそうですが、もう十分に難問ですよ。私は先日、昭和30年代からの東京大の入試問題を読み返してみたのですが、当時の東京大の物理の問題より、現在の中堅私立大工学部の入試問題の方がよほど難しい。出題者である教授の専門分野の焼き直しのようにも思える、出題意図の不明な難問が多いように感じます。かえって弁別性が悪くなっているのではないでしょうか。それに、昭和30、40年代には学力低下は話題になっていませんでした。一方、難問に取り組み入試をくぐり抜けた今の学生には、深刻な学力の剥落が起きている。難問を出題することで高度な思考力を持つ学生を採るという考えは、見直す必要があるように思います。
鳴島 もし学習指導要領で扱われていない問題を作成したら、当然批判を受けるのは大学側も分かっているはずです。大学はその批判に対して、きちんと答えるだけの理屈を持っていなければなりません。「この知識は、うちの大学としてはどうしても高校段階で身に付けておいてもらう必要がある。だから、学習指導要領の範囲を越えていることを知りながら、あえて出題した」という風に。そこで説得力のある説明ができなければ、その大学は社会での存在意義を問われることになります。
 もっと高校現場が、大学の入試問題に対して意見を言っていいということですね。
鳴島 ただし医科大のような単科大は、気の毒な面もあるんです。試験で課す各教科の専門の教員がいない場合が少なくない。ですから今、大学入試センターではそういう大学に対して「相談に乗りますよ」と呼びかけています。今後は、大学入試センターが個別試験の作成を手伝うケースも増えると予想されます。
 それは画期的なことですね。

4 今後の方向性
変化する大学入試への高校側の対応

「総合的な学習の時間」と「情報」の効果的な結合を

 さて、センター試験の2回実施などを模索する大学審議会と、5教科7科目を課そうとしている国立大学協会。現在のところ、この二つの動きがあるわけですが、それに対して高校側としてどのような対策が求められるかについて、話していきたいと思います。
村山 新課程では、中学校の段階で各教科で教える内容が3割削減されることになります。一方大学側からは、入学時に現在の学力の維持が求められれば、高校は“泣き面に蜂”状態です。そうなると高校2年次の段階で文理分けをして、入試対策を意識したカリキュラムを組まざるを得ないでしょうね。本校でも2年次に文理分けをしています。1年次には理科3科目を各2単位ずつ履修し、数学も2年次まで全員必修です。文系に進む生徒にも、数学を3年次でも履修するように言っています。これは広く教養を身に付けてほしいからです。できるだけこの態勢は維持したいのですが……。
藤井 国大協が5教科7科目案を出してきたことを考えると、私は逆に2年次までは幅広い教科を学ばせて、文理選択は3年次に行った方がよいのかなという気がしています。新課程でのカリキュラムについては、学内の将来構想委員会で現在検討中です。
石浜 本校でも現在、2年次で文理分けをしています。以前は3年次でしたが、それでは大学入試に対応できないという意見が出されたからです。しかし、まだ進路意識も持っていない1年次の秋に、文理選択をさせるのも問題が大きい。なかなか妙案がありません。

図9 大学審議会中間答申における個別試験改善策
  1. 募集単位の大くくり化と多様な選抜評価尺度の導入
    ・学部段階では、課題探求能力の育成を重視すると共に、幅広い教養を身に付け、専門的素養のある人材として活躍できる基礎的能力を培う。そのため、大学入学前ではなく、後に専攻分野を決定するほうが望ましい
    ・大学を活性化するために、多様な学生を受け入れるため、一つの募集単位の中で異なる方法や尺度を用いることも必要
  2. センター試験と異なる、入学後の教育を受けるのに必要な能力・適性を判定できる個別試験へ
    ・受験教科・科目は、入学後の教育の関連を十分踏まえた上で設定。学力検査で課さない教科・科目については、履修しておく科目としてあらかじめ指定したり、調査書を選抜資料として活用。
    ・受験教科・科目を変更する場合は、2年ほど前には予告・公表することが望ましい。
  3. 分離分割方式の募集人員の適切な比率への積極的対応
  4. 秋季入学の拡大
  5. 入試専門組織の整備
  6. 信頼性の高い、外部試験の活用
    ・英検、TOEFL、TOEICなどの活用も有効
  7. 試験問題作成への外部専門家の活用
    ・大学入試センターによる各大学の試験問題の作成の支援などについても検討する必要がある
  8. 入学者選抜についての評価の促進
    ・自己点検・評価のみならず、高校関係者などによる外部評価の実施も求められる。「大学評価・学位授与機構」の活用も
  9. 入学者選抜に関する情報提供の推進
  10. AO入試の推進

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