学校を越えた教師の連携を生み出した「進学指導連絡会」
新課程の導入や入試改革など、教育現場では大きな変革期を迎え、教師はいくつもの課題や悩みを抱えている。さらに、生徒の学力低下や学習への意識の変化など、様々な要因が絡み合い、一校だけではなかなか解決できない課題も増え、その対応に苦慮している高校は多い。
そのような現状を少しでも改善していこうと、静岡県では、3年前、県内の公立高校10校が集まり、主に進路指導担当者の情報交換の場として「進学指導連絡会」が結成された。静岡県立富士高校の安達昌二先生は会の目的をこう語る。
「各校で進路指導を担当している教師は、それぞれ深刻な悩みや課題を抱えています。それを素直に出し合い、話し合うことによって、課題解決に向かって一歩前進できるのではないだろうかと考えました。そのためにまず、学校の枠を越えて、教師同士の横のつながりを持つ、話し合いの場を作ることになったのです」
「進学指導連絡会」は一学期に一度、定例会が開催される他、随時、会合が開かれている。会を運営する教師が主体となってテーマを決め、新学習指導要領への対応や「総合的な学習の時間」への対応などの討議、大学や他県の高校からゲストを招いての勉強会を実施。毎回、25~30人の教師が参加し、活発な議論が交わされている。そこにより良い教育を考えていこうという「進学指導連絡会」の姿勢が現れていると、静岡県立浜松北高校の鈴木智之先生は言う。
「参加者は各校の進路指導主事の教師が中心ですが、実際にはいろいろな方に声をかけており、時には校長や若手の先生も参加しています。自由に発言できるムードを大切にしています」
10校という限られた高校ではあったが、まず県内の教師のネットワークを確立することに重点を置いてスタートした「進学指導連絡会」。3年目に入り、その目標はほぼ達成され、次のステップとして、会のメンバーが共同して何かに取り組み、教育問題解決のための情報を発信していこうという提案がなされた。その一つとして着手したのが「入試問題の評価分析」である。
まだある参考にしたい取り組み
|
評価分析の観点
- 高校の授業内容から見て、適切な問題が出題されているか。難問・奇問に類するものはないか。枝葉末節の受験マニア好みの問題になっていないか。
- 出題者は受験生の何を調べようとしているのか。知識量なのか、論理性なのか。作問の背景にある、「出題者の意図」はどんなところにあると考えられるか。
- 普段の生徒の学力レベルと受験する大学が要求する学力レベルは合致しているか。さらには、大学が要求している学力レベルは、当該大学の学部・学科に見合っていると思うか。
- この大学(学部・学科)はどんな生徒を欲しいと思っているのか。入試問題の背後の「期待される学生像」はどのようなものが描かれているか。あるいは、全く学生像のイメージが希薄なまま作問していることはないか。
- こんな入試問題を出すような大学には大事な生徒は送れない。あるいはこのような良くできた問題を出す大学なら生徒にぜひ勧めたいというものがあれば、執筆者の主観でよいので具体的に挙げる。
- この入試問題には、高校での学習内容が生かされているか否か。高校教育を理解し、練られた良問であるか。それとも、反省を求めたいものか。大学側の一方的な思い込みが優先し、作問に時間をかけず、誠意が見えないか。
- 出題の分量・解答時間は「適切に」考えられているか。過度に時間が不足したり、時間を持て余す出題になっていないか。そのような点で「質・量」の工夫が見られるか。
- 例年の出題傾向からの「変化」の度合いは適切か。一度に何の前触れもなく出題傾向を変え、生徒に混乱を招くことはないか。
|
10校48名の教師が31種類の入試問題を徹底的に分析
なぜ、入試問題なのか。静岡県立磐田南高校の鈴木孝雄先生は、入試問題にこそ、大学が求める生徒像がよく現れているからだと話す。
「入試問題は大学側が欲しい生徒を選抜するためのツールの一つです。逆に、入試問題から大学側の意図が見えなければ、入試問題として不適切だと思うのです。ですから、実際に教師が入試問題を解き、大学は入試問題としてふさわしい、適切な問題を出題しているのかを分析し、高校サイドとしての意見を大学側に提示したいと考えました」
生徒の能力や可能性を、専門的な研究のできる大学が、もっと大きく伸ばしていってほしい。高校が育成した生徒を大学に託す、その橋渡しとして入試はある。だとしたら、大学は高校の意見も入試問題作成の参考にしてほしい。入試問題評価分析の最終目標はそこにあった。
初めての試みでもあり、対象を地元の静岡大、浜松医科大、静岡県立大の前・後・中期各日程と推薦入試の入試問題とした。評価分析する担当は、「進学指導連絡会」に参加している教師48名に協力を呼びかけた。評価分析は、「高校生に適した入試問題か」を一番に考え、8つの観点(上表参照)から行うこととし、夏休みまでに依頼を完了した。一教師として入試問題を分析することはあっても、学校の枠を越えて教師が協力して、組織的に入試問題を評価分析することは、全国でも少ない。
さらに、「進学指導連絡会」では、分析結果を冊子にまとめて、社会に公表しようと計画した。それは、高校教育と大学教育の接点を積極的に考えていこうという、「進学指導連絡会」の意志の現れであった。どのような反響が返ってくるかは未知数だが、社会に疑問を投げかけることで、高校と大学が連携していくための、大きなきっかけになるだろうという期待もあった。
「教育をよくするためには、お互いが連携していくことが大切だと分かっていても、実際に話し合ったり、情報交換する場はまだまだ少ない。入試問題という“窓口”を通して、大学の姿勢を知るのも一つの方法だと思います」(安達先生)
<前ページへ 次ページへ>
|