日差しが西に傾き、風が一層冷たく感じられる12月のある放課後。茨城県立並木高校の学習会館(ブライトホール)の一室に40名ほどの生徒が集まってきた。「第7回 MY FUTURE」に参加するためだ。今日の演題は「聴覚障害者教育と私」。講師は筑波技術短期大聴覚部教授、及川力さんだ。
及川さんは静まりかえった教室の演壇に立ち、並木高校の近くに聴覚障害者と視覚障害者のための短大があることを説明し始めた。短大で彼らがデザインや建築、電子工学、情報処理、理学療法など多岐にわたる分野で学んでいること、その中で、自分は聴覚障害者にスポーツや遊びを教えていること……。及川さんはスライドを使い、時に生徒に質問をしていくが、生徒の反応はいま一つ活発ではなかった。
生徒の様子が
変わり始めたのは、シドニーオリンピックの水泳競技の話にさしかかった頃だった。
「飛び込み台の横に小さなランプが付いているでしょう。これはスタートの合図を光で知らせる装置なんです」
ランプが付いたことで、耳が聞こえないということがハンデにならずに競技に臨めるようになった、と及川さんが説明すると、生徒たちの顔に興味の色が現れ始めた。さらに、メダリストもいると話すと、驚きの声が挙がった。その声に後押しされたのか、その後、及川さんは自分の進路選択のきっかけを話し始めた。
「私は学生時代、サッカーに熱中していて、インターハイや国体に出場したこともありました。漠然とですが、ずっとサッカーを続けるんだと思っていました。でも、ケガをしてしまい、サッカーを続けることを断念せざるを得なくなったのです」
サッカーを辞めるというときになって、初めて将来について真剣に考えたこと、学生時代には想像もしていなかった道を選択したこと、でも、苦労の積み重ねがあったからこそ、今の“自分”があること……。予定時間を15分オーバーして、及川さんは最後をこう締めくくった。
「私は高校時代に思い描いていた将来とは違うコースを歩いていますが、それを後悔していません。だからこそ思うのですが、挫折してしまうのは本当にやりたいことをやっていないからではないでしょうか。困難な壁に突き当たっても、自分が本当に進みたい道を選ぶことが大切だと思います」
1時間の話の中から、生徒は何をつかみ取ったのだろう。ある男子生徒は、話を聞いて、目の見えない自分の祖父を思い出したと話す。
「祖父は一人で外出しているし、活動的なんです。障害があるかないかは生き方とは関係ないんだと、改めて感じました。僕もしっかり自分の生き方・進路を考えます」
生徒の言葉を傍らで聞いていた大内晃先生は講演会の成果を感じてか、満足そうに頷いた。
「1回の講演会で生徒に大きな変化が現れるとは思っていません。でも、生徒に将来について考える種をまければいいと考えています」
講演会は全校生徒、保護者、教師に日時とテーマを告知する。参加者の大半は第2学年の生徒だが、他学年の生徒や保護者の参加も数名はいるという。
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