VIEW21 2001.04  指導変革の軌跡 宮崎県立小林高校

 「なぜ宅習時間(家庭での学習時間)がこんなに少ないのか?」  '99年4月、4年ぶりにかつて教鞭を執っていた宮崎県立小林高校に戻ってきた教頭の水島忠臣先生は、生徒の家庭学習時間のデータを見て愕然とした。受験を目前に控えている3年生でも、土日を含めた1週間の学習時間の平均は約33時間。中だるみ期とも言える2年生に至っては30時間を割っていたからだ。
 小林高校は昭和40年代から学力向上の一環として、生徒の家庭学習の定着に積極的に取り組んできた学校だ。「週プラン」として1週間の学習計画を立てさせた上で、宿題として毎日、学年共通の課題を出し、毎日の学習時間を「私の生活・学習ノート」に記入させ、担任に提出するというスタイルが確立していた。それは、生徒が変わり、教師が変わっても、ずっと受け継がれてきた形だ。しかし、小学校、中学校時代と家庭学習をほとんどしたことのない生徒が増えるにつれ、小林高校の良き伝統は崩れようとしていた。
 「学習時間の減少は学力低下に直結する。学習時間の減少をくい止めなければ……」。危機感を抱いた水島先生は、新たな視点から課題学習に取り組み、生徒の学習習慣を確立させようと考えた。

今ある課題学習を
どう改善していけばいいのか。水島先生と教務部で組織する教育課題推進委員会では、まず生徒の学習状況、学習法の現状を把握することから始めた。すると、生徒の学習習慣の欠如以外に、もう一つの問題点が浮かび上がってきた。課題学習に対する教師の足並みが全く揃っていなかったのだ。
 「課題を与えることによって生徒の自主性をつぶしてしまうと言う先生もいました。しかし、教師によって対応がバラバラでは、生徒に課題学習が浸透するはずがありません。先生方には職員会議などで、課題学習が家庭での学習習慣の確立にどれだけ必要か訴え、一致団結して課題学習に取り組んでいこうと呼びかけました」(水島先生)
 課題学習には三つの柱がある。「課題プリントの作成」「1日の学習量の設定」「週プランの指導」だ。課題プリントは、教師が個別に作るのではなく、科目ごとに学年共通の課題プリントを作成する方針に戻した。プリントには、授業の予習や復習に関する問題を盛り込み、単なる宿題ではなく、生徒が必然的に課題に取り組めるよう、授業に直結する課題とした。例えば、1年生の数学では、1回の授業で2枚のプリントを配布する。内容は、前回の授業の復習問題、今日の授業の内容、演習問題、そして家庭学習用の復習問題の4パートに分かれている。プリントに取り組むだけで復習できるというわけだ。
 また、1日の学習量と週プランは、生徒自身に計画を立てさせた。「私の生活・学習ノート」に1日の学習量と1週間の学習計画のモデルケースを示し、担任は、生徒に部活動などを考慮して、自分なりにアレンジして計画を立てるように指導する。実際に学習したかどうかは、「私の生活・学習ノート」に毎日記録させた。
 課題プリントも「私の生活・学習ノート」も、毎日または週1回と、担任の状況に応じて提出させるようにした。教務部主任の黒岩正文先生は提出の意義をこう話す。
 「週プランを守れているかどうか、プリントをこなせているかどうかをチェックしなければ、学習の効果は半減です。学習時間が少ないと気付けば、大きな問題となる前に、面談などで生徒の相談に応じることもできるでしょう」
 「課題プリントの作成」「1日の学習量の設定」「週プランの指導」の三つの柱を、3学年とも足並みを揃えて徹底して行うことで、生徒の学習習慣の確立に動き出したのだ。

写真 私の生活・学習ノート
1年間、学習時間を記録し続け、ボロボロになった「私の生活・学習ノート」。課題プリントはファイルに綴じて整理している生徒が多い。



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