VIEW21 2001.04  特集 総合学習を軸に考える学校づくり

未来に対する意志決定のし辛い時代に生きる高校生

 将来展望にかかわる高校生の意識が変化している。ベネッセ文教総研の調査によると、わずか10年足らず('93から'00年)の間に「なりたい自分―将来についてはっきりした目標がある」を肯定している高校生の割合は66%から46%へ、「大切にしたい個性―進路を選ぶ上で大切なこと」は58%から40%へ、「成長の可能性―どんな能力・適性があるか分かっている」は48%から31%と、かなりの低下を見せている。逆に、これらの設問に「分からない」と答えた生徒は増加傾向にあり、30%前後に達している。このことから、最近の高校生は進学や就職に積極的な意味を見いだし辛い、言い換えると「未来に対する意志決定ができにくい時代」を生きていると言えるだろう。

図1 「自分さがし」とは?

 図1は、自己概念の捉え方を図式化したもので、時間(進路展望)と空間(他者との関係)の中で、自分をどこに位置付けているかを示している。自己を否定的に捉えている生徒は、自分を中心とした狭い社会と体験した過去と現在からしか自分を見ることができない。そのため、「今の自分」しか見ることができない。このため彼らの価値観は「今」や「自分」を軸としたものになり、「自由」や「権利」を主張し、社会通念からはわがままと見える行動をとることがある。これに対し、自己を肯定的に捉えている生徒は、「未来や社会といった未知の世界」にいる自分を見いだそうとしている。つまり、「未来」や「公」の世界の中で自分を相対化して見ることができるため、生きる上で「規律」や「義務(責任)」の持つ意味と大切さを理解しているのである。
 高校は、生徒を「自己を否定的に捉えている状態」から、自己を肯定的に捉えられる「自己受容」へ導くことが必要になるが、その過程には「バリア(障害)」が存在する。それはスムーズに乗り越えられるものではなく、多くの場合、高校生は矢印の方向に行ったり戻ったりする(自己概念に「揺れ」が起こる)。高校で低学年指導の大切さが指摘され始めて数年たつが、これは自己受容へ導くための取り組みに他ならない。低学年次から、縦軸に対応して進路学習を、横軸に対応して啓発的体験学習を積み上げ、学びの体系化へと結び付けようとしているのである。そして、生徒を「未来」や「公」の世界に誘うことで、学びの持つ意味やキャリアの社会的機能を理解させ、「なりたい自分」を社会や将来とのかかわりの中で設定させようとしているのだろう。
 「総合学習」には三つの狙いがある。一つは、「なりたい自分」を描かせるための「在り方・生き方、進路を考察させる」。二つ目は、「現代的課題についての多面的な学習」によって、目標に到達するために必要な課題解決能力を身に付けさせる。最後に「興味や関心に対応する課題研究」で個性や適性の発見と育成を図る。つまり、これまで積み上げられてきた教科・進路・体験学習を、知的活動として総合化することを目指したものと言える。
 こうして考えてみると、「総合学習」は学校教育活動の基盤となるものであり、一人ひとりの生徒が自分の人生を建設的に考え、社会とのかかわりの中で自分の「夢」や「理想」を実現するために何を学び、どんな行動をとるべきかを考えさせようとする学習活動だと言えるだろう。


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