VIEW21 2001.04  特集 総合学習を軸に考える学校づくり

「なりたい自分」の認知レベルを高め「意図的学習」へと導く

 最近、目標未獲得(喪失)型の青少年が増えているという指摘がある。ベネッセ文教総研がアイデンティティや自己概念に関する調査を生徒に対して行い、そのデータを分析したところ、「なりたい自分」の認知レベルに次の3段階があることが明らかになった。

◎レベル1 ファジーな目標の段階
 「したい事」や「夢」「希望」といった漠然とした形で、「なりたい自分」を描こうとしている。このレベルにも到達していない生徒は、将来展望が描けない「幼い高校生」であり、その多くは過去の生活体験を引きずっている状態でとどまっている。
◎レベル2 シャープな目標の段階
 他者から見られている自己を前提として、「なりたい自分」を描こうとしているが、社会や未来と自分との関係は未調整のままである。このレベルに達している生徒は、進路選択について意志決定ができていなかったり、「意味不安(何をしたいか迷う/将来に希望が持てないなど)」を抱えているケースが多い。
◎レベル3 リアルな目標の段階
 自分の個性や適性(潜在的成長の可能性への認知)を踏まえ、現実社会や将来展望とのかかわりの中で「なりたい自分」を描いている。

 レベル2と3に属する生徒数の割合には約3割の違いがあり、その間には大きなバリアが存在している。そのため、高校におけるキャリア教育の到達点はレベル3だと考える教師が多い。そして、このバリアをどう突き抜け克服させるのかが、教師の腕の見せ所となる。そのためにも、「総合学習」とその他の活動を結び付け(図2)、目標を持ち、それを実現するために主体的に学ぶ「意図的学習」へと、生徒を導いていくことが必要だ。

図2 総合的な人間力を育てる「場」

大学人は「総合学習」の積極的な位置付けを期待している

 '00年に「総合学習」の実践に関して大学人(全国4年制大の学長・学部長)に調査を行った際の頻出キーワードをカウントしてみた。結果「思考力」「人間力」「課題探求力」の三つが30%以上の出現頻度を示した。また「表現力」「視野の拡大」が約20%ずつ。この反面「期待しない」との否定的回答は出現頻度で15%にとどまっている。これらのキーワードには、「総合学習」に対する大学教育へのレディネス(準備度)育成への期待が表れていると言える。これに高校現場がどう応えるかが問われているのである。
 「総合学習」に関しては、大学生の学力低下問題と絡ませて、「『総合学習』を実施するより、教科の授業に力を入れるべきだ」といった意見も聞かれる。しかし、これは「総合学習」が設けられた趣旨や青少年の実態を見ていない主張であり、圧倒的多数の大学人自身の認識とも相反している。高校での活動そのものは「種子」であって、大学での学びによって「養分」を吸収し、やがて「花」となり「実」を結ぶ。これこそ教育活動における高大接続の方向性なのである。


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