教育理念を行動に結び付ける学校づくり
表1のマトリックスは、横軸に人材育成の目標をI~IIIのカテゴリーに分けて示し、縦軸に学校の教育活動を展開場面A~Eの五つに集約したものだ。IとIIは直近の目標、IIIは将来を展望したものであり、例えば、将来、研究大学院への進学を目指す人材を育てるのであれば、IIIの5、6を育成するための「種子」を高校時代にまいておく必要がある。
この表に「総合学習」を当てはめた場合、直近の目標から見るとIの1とIIの3、4を育成するための学習活動に位置付けられる。Iの1を従来通り“C 進路学習”が担う高校であれば、「総合学習」は、“D 現代的課題学習”を通じてIIの3、4を育成することに重点を置くことになる。IIの4は、“E 特別活動”で、IIの3は新しく設けられる教科「情報」が担うのであれば、IIIの6を育てるために“D 現代的課題学習“を柱にした「総合学習」の展開を構想することになるだろう。
いずれにせよ「総合学習」は、“D 現代的課題学習”はもとより“B 表現指導”“C 進路学習”“E 特別活動”などの学習活動と深くかかわっており、現代的課題学習や表現指導は“A 教科指導”、とりわけ「基礎・基本の確実な習得」を伴わない展開は考えにくい。つまり、基本的な知識や理解(内容知)を欠いた思考力・表現力(方法知)は存在しないのだ。
このように「総合学習」は、様々な指導の場と相互に関連し合うことでその効果はさらに大きくなる。
何のためにこの「総合学習」を学習活動として実践するのか。このテーマが学校づくりの出発点であり、それぞれの高校が「こういう人材を育てるため、このプログラムとこの方法で教育活動を展開し、その結果を検証する」という教育理念を単なる「言葉」としてではなく、「行動」に移せるものとして共通理解することが教育理念の共通言語化であり、スクール・アイデンティティ(SI)の構築なのである。
次ページより紹介する3校の事例は、いずれも「総合学習」の取り組みを核として新たな教育理念の実現を目指すものである。その在り方は三者三様であり、固定化したパターンがあるわけではないが、図2に見られるように、「学校行事」「啓発的体験学習」などの項目にそれぞれ特徴を持たせ、「総合学習」と連動させようと試みている点や、自校の伝統に立脚しつつも、大胆に従来の教育を見直し、自己点検を行うところからスタートしている点は共通しており、注目に値しよう。
(ベネッセ文教総研所長 高田正規)
今回の特集の詳細(3校の実践報告含む)は、『課題解決力の育成を目指す教育』(ベネッセ文教総研編:'01年4月刊)でご覧になれます。ご関心のある方は最寄りの小社キーステーションまでお問い合わせください。
◎ベネッセ文教総研 Tel.086・221・5375
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