「環境を科学する」視点で進学校として無理のないカリキュラムづくり
実は、徳島県の小・中学校における「総合学習」の実施率は9割を越え、その中で最も多くの学校が課題としているのが環境問題だという。富岡西高校が実施した学区内の中学校を対象のアンケート調査でも、約6割が何らかの形で環境問題を扱っていることが明らかになった。つまり、生徒は小・中学校で扱っているテーマで、高校でも「総合学習」に取り組む可能性が高いということになる。その場合、中学校の「総合学習」の単なる焼き直しとしないために、どのように中・高の間に系統性を持たせ、高校で中学校で取り組んで来たことをより深化させるかということが課題になる。小・中学校で実施されている『総合学習』はねらいも到達度も様々だ。だが少なくとも、「学びの楽しさ」や「学び方・考え方」はある程度身に付いていると仮定して、高校としての「総合学習」をどう設定するか。
この仮説を基に、「富西プログラム」として同校が打ち出した方法は、かなりユニークなものだ。総合学習「地球と環境問題」は1年次から3年次まで3年間に渡って展開するが、1年次を導入ステージと位置付けた。そして導入ステージでは環境問題に関する基礎知識習得を目的に、ホームルーム単位で教師による講義を行うことにしたのだ。従来の総合学習=体験学習という固定観念を破るものだった。このねらいを藤川卓司先生は次のように語る。
「生徒たちは小・中学校までに、様々な体験的な学習を受けてきています。しかし、そこで得た知識は断片的です。高校段階では単なる体験にとどまらず、自ら課題を設定して環境問題に対して科学的にアプローチできる力を養うことが求められます。そのためにはまず土台となる知識を獲得することが大事だと考え、1年次を基礎知識と情報処理などの問題解決技能の習得を目指す期間と定めたのです」
導入ステージでは「生態系」「制度・法律」「文化」など8講座が編成された。「生態系」なら生物科というように、かかわりが深い科目の教師が担当した。生徒は各講座を2、3時間ずつ1年間かけて受講し、環境問題に主体的に取り組むための準備を整える。
2年次は展開ステージ。生徒は1年生のときに受けた講座の内容を参考にしながら、自分の興味に基づいて課題設定をする。生徒は八つの講座に所属して活動し、そして個人またはグループで自主研究に打ち込む。指導を受け持つ担当教師は、それぞれの生徒が設定した課題に最も近い科目の教師が担当する。ここでも教師がそれぞれの専門性を活かせる仕組みを取り入れている。
そして、3年次は完結ステージ。2年次までに培われてきた環境問題への基礎知識や問題意識を基に、小論文やディベートを実施することで、大学入試や大学入学後の学習、研究活動にも適応できる力の育成を狙いとしている。
ちなみに同校は、'00年度に1年次のみを対象に総合学習「地球と環境問題」を始め、2年次の展開ステージと3年次の完結ステージはこれからの実施となる。そのため、この取り組みが当初の目的である「生徒の『自ら学ぶ力』を伸ばす」ことに結び付いているかどうかは、まだ結果が出ていない。
「ただ環境問題への関心は高まっていると思います。生徒会から学校内で売られているジュースにデポジット制度を導入する案が出るなど、自主的な動きが見られるようになりました」(近藤先生)
限られた時間数の中で総合学習と教科の両立をいかに実現するか
富岡西高校では現在、総合学習「地球と環境問題」を各学年で1単位ずつ組み込んでいる。「新課程になっても、この形は守っていきたい」と近藤先生は語る。ただし、進学を希望する生徒が多い高校である限り、生徒に高いレベルの教科学力を育てていくことが求められるのは変わらない。「総合学習」と教科・科目の両立は不可欠と同校では考えている。
そこで同校では、総合学習「地球と環境問題」と教科領域とを結ぶ研究が進められている。「総合学習で」身に付けられる力と、教科・科目で身に付けられる力は分離しているわけではない。英語の授業で読解力を付けた生徒が、「総合学習」で専門的な文献にアプローチしたり、「総合学習」で養われた問題意識が「教科学習」への意欲につながることが期待される。図5(前々ページ)は、同校での総合学習「地球と環境問題」と教科領域との一般的な関連を表わすものである。さらに、各科目についても、両者のかかわりをより具体的に検討した内容を図式化している。
だが、教科・科目の立場に立ったとき、やはり「総合学習」の導入によって、授業時間数が減るのは厳しいと言わざるをえない。同校では、教科・科目で教えている内容のうち、総合学習「地球と環境問題」の導入ステージの講座でも扱えるものについては、移行していくことを検討中である。
もう一つ同校が準備中なのが、単位制の導入だ。'03年度移行を目指して、現在教育委員会に要望書を出している。
「単位制移行のねらいは、生徒の多様化への対応です。従来通りのカリキュラムでは、多様な学力と興味・感心を持つ生徒すべてに適応できる授業をするのはとても難しい。単位制が一番適しているのではないかと考えました」(近藤先生)
総合学習「地球と環境問題」によって、生徒に自ら学ぶ力を身に付けさせる。そして、単位制によって、生徒の学力と興味・感心に合った指導を展開する。さらに、総合学習「地球と環境問題」と教科・科目領域を有機的に結び付け、高大接続に有効な指導体制の確立を目指す。
富岡西高校は、新課程に向けてそんな青写真を描き、既にその準備を着々と進めている。
<前ページへ 次ページへ>
|