生徒が主役になる場や相互評価の機会を多く持たせる
ただし、必ずしも同校では1年生の時点で、生徒に将来の職業や志望学部・学科を決定させるような指導をしているわけではない。向井勝也先生は次のように考えている。
「例えば、早い段階で大学では情報工学を学ぶと決め、他のものは一切見ないままに進学した生徒が、もし中途で挫折してしまったらどうなるでしょう。高校段階では、将来観を養わせながら、一方でそれを揺さぶってやる仕掛けが必要です。これからは、時間軸に沿った進路指導だけでなく、自己概念の『空間軸』を広げて多角的な視野に立って自己の進路を開拓していく力を、もっと育てていかなければと思っています」
同校が特に重視しているのが、活動の主体をできるだけ生徒の手に委ねるということだ。夏休みに開かれる中学生向けのオープンキャンパスでは、生徒が自ら中学生に向けて「こんな勉強をしていますよ」とプレゼンテーションをする。また将来の夢を英語で発表するスピーチコンテストでは、ALTと共に生徒も審査員に加わり、司会進行も生徒が務める。スピーチコンテストのような発表形式のイベントは2か月に1回程度の頻度で行われており、生徒が主役になる機会は多い。原則履修科目だけでなく、このような自主的活動も、「主体的に粘り強く問題解決に取り組む」生徒を育てる大きな柱だ。
そして、発表会やレポート作成の際には、生徒に相互評価をさせる。例えば企業・事業所訪問で病院を訪ねた生徒が、裁判所を訪問した生徒の言葉に耳を傾けコメントを書く。
「クラスメートが体験したことを聞いて、もしかしたら自分の進路選択に迷いが生じるかも知れません。でも考えた末にやっぱり自分はこの分野だとつかんだら、それは確固たる自信になるはず。そんな風に集団活動の場を上手に活用していきたいですね」と向井先生は語る。
リーディングマラソンやプレ課題研究を通じて多角的な視野を養う
だが、米村文香先生によると、それにもかかわらず「自分が選んだ進路やテーマ以外には興味を示さない生徒も見られる」と言う。同校では1年次の後半から、国際文化、グローバルサイエンス、生命科学といった進路希望別の系列に分かれて原則履修科目を受けたり、2年次以降は将来の進路を意識した科目選択を行う。そこで生徒が抱きがちなのが、例えば「環境問題はグローバルサイエンス系列が主として取り組む課題であって、私の進む分野には直接関係ない」といった発想だ。
「自分が選択した専門分野を深めるだけでなく、横のつながり、複眼的な発想も鍛えていきたいですよね。そこで'99年度より開始したのがリーディングマラソンなんです」
リーディングマラソンは1、2年生を対象に実施され、学校側が指定した6冊の書籍を1ヶ月に1冊のペースで読んでいくというもの。教育、環境、福祉など、様々な学問領域の本が選ばれている。生徒はホームルームや休み時間などを使って、その幅広い分野の指定図書をすべて読破していく。そして、その中から1点を選び、1年生は800から1000字、2年生は1000字から1500字の小論文に仕上げる。
「小論文についても、やはり生徒同士で相互評価をさせます。みんなに同じ本を読ませるというのがミソですね。こんな着眼点があるのかと、生徒の視野が広がることを期待しています」(米村先生)
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