VIEW21 2001.06  創造する 総合的な学習の時間

明確なSI構築が「総合学習」の方向性を決定する

――「総合学習」の検討を進めるにあたって重要なことは何でしょうか。
吉田 まず学校の方向性を打ち出すことだと思います。最初にSI(スクール・アイデンティティ)ありき、です。本校は学校力向上委員会で「総合学習」について検討していますが、SIを構築して初めて「総合学習」の方向性も出てきます。すべての教師でSIを検討し、「どういう生徒を育てるのか」についてコンセンサスを得ることから、「総合学習」に向けた一歩を踏み出すべきでしょう。
 不安や戸惑いから「総合学習」に対して消極的な気持ちが働くのは理解できます。しかし、むしろ「総合学習」を学校改革の好機と捉える積極的な姿勢で臨むべきでしょう。
山口 昨年度までの勤務校でも、「総合学習」について「内容がはっきりしないと不安だ」と感じる教師がいたことは事実です。それで、「総合学習」に関する情報を盛り込んだ通信を配ったり、先生方と話し合いの場を持ったりしました。そうしてお互いに勉強した結果、「総合学習」に対する意識は1年経って随分変わったように思います。教師皆で「総合学習」について話し合い、研究し、情報を共有化することが大切ですね。
上原 先生方に意欲を持って取り組んでもらうには、「総合学習」の目標、方向性を明確にする必要があるでしょう。その前段階としてSIを構築し、3年間の「総合学習」の構想をその中に位置付けてこそ、学校独自のスタイルが定着するのではないでしょうか。
吉田 本校には設立当時から「東(長崎東高校)は一つ」という合言葉があります。しかし、時間の経過と共にその精神が希薄になってきています。「総合学習」はそれを見直す絶好の機会としたいですね。教科で何ができるのか、学年で何ができるのか、あるいは進路指導、部活動で何ができるのか、それぞれの視点から「一つである東」をどう組み上げていくのか、「総合学習」をチャンスとして活かせればいいなと思っています。
 確かにSIを構築する意義の一つは、学校の将来像を方向付けて、教師集団のベクトルを合わせることにあります。SIとは教師がコンセンサスを持って一つのベクトルに結束するという要素も含めたものなのでしょうね。新卒の先生も新任の先生も、その学校がどの方向に、なぜ向いていて、そのために何をどうやっているのか、そういうことを一つひとつ押さえていける場面がある学校は、方向性がぶれない学校だと思います。その背景がないと、5教科7科目、週5日制などの問題が出てくる度に、教科同士の時間の取り合いになったり、テクニックでどうかわすかということになったりします。
山口 その状況は部活動に置き換えてみると考えやすいですね。部活動はそれぞれの部がばらばらに活動しているじゃないですか。たぶんどこの学校も、顧問の先生が一堂に集まって部活動の組織づくりや合宿の仕方といったことを研究することはないだろうと思います。でも1回集まって、ケガをしたときはどうケアするかとか、マネージャーをどう育てるかを話し合うだけでも、部活動の力はぐっと上がるはずなのです。「総合学習」についても、例えば数学の先生は数学の枠から一度出てもらって、国語の先生は国語の枠から出てもらって、「総合学習」という土俵にみんなが集まって話し合い、力を合わせる絶好の機会だろうと思います。教師の力の再結集、パワーアップという点で、非常にいいチャンスだと思います。
吉田 教育に対する考え方について、先生同士、本当は少ししかベクトルが違わないのに、場面場面で正反対に感じることがあると思うのです。教育への思いを共に再確認できる場があれば、大きな力になるでしょう。
 我々はどういう生徒を育てたいか、進学校なら必要条件として生徒の大学進学の希望をかなえてあげなければならない、これは事実としてあります。しかし、大学に入りさえすればいいと思っている教師なんて一人もいませんよね。吉田先生がおっしゃるように、教師それぞれが違うように見えても、実は少し違うだけかも知れない。「総合学習」は教師の意識を束ねる場になり得ると思います。

写真 山口先生
教師の力を結集させる場に!
山口先生(武生東高校)
教師の中には、「総合学習」に対して時間だけとられて、辛いことをさせられるんじゃないかという不安を持つ方もいます。でも、「総合学習」という同じ土俵に各教科の先生を結集させ、教師の力をアップさせる意義は大きいと思います。
写真 牧先生
主体的な学習姿勢を取り戻そう
牧先生(倉吉東高校)
従来の教育の手法には限界があります。学びから逃走しようとしている生徒を枠に囲い込んで、逃がさないようにして勉強させるという考え方はもう通用しません。「総合学習」は、生徒を主体的な学習者にする一つの切り口でしょう。

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