選択力を育てる
日常的な語り掛けが選択力を育てる
では、生徒の選択力はどのようにして育てていくものなのだろうか。
そもそも、生徒の日常は、大なり小なり多種多様な選択のシーンで満ちている。選択の連続で1日がなされているといっても過言ではない。つまり、生徒が選択の場に臨んでいるシーン(=教師にとっては選択力育成のための指導のチャンス)は無数にあると言える。そこで、生徒に日常的に自己の選択について振り返らせるように働き掛けてはどうだろう。
自己の将来に対して展望を持てない生徒もいる状況では、面談やLHRという場では生徒は必要以上に身構えてしまいかねない。むしろ、休み時間や清掃時間などでのたわいもない話題を通しての指導の方が、生徒はリラックスできる。生徒と言葉を交わしながらさりげなく「どうして?」「なぜ?」と問い掛ける。生徒は、自分が当然だと思って半ば無意識に行った選択に対して、他者からその理由を聞かれたとき、初めて客観的に理由付けを行うことになる。このような作業が少しずつだが確実に生徒の選択力を育んでいくはずだ。
人間は、過去の選択によってもたらされた結果や記憶から学び、次へと活かしていくものである。主体的な選択の経験が少ない生徒が、いざ進路選択の場面に立っても、満足のいく主体的な選択を行うことは難しい。生徒には、過去の様々な選択について改めて理由付けをしていく作業を通して、新しい選択には「本気で考え、理由付けをし、結論を出す」という姿勢を身に付けさせたい。
過去の選択を生徒自身に振り返らせる
選択力を育成する具体的な取り組みを考えてみよう。
まず、自分の選択の歴史を振り返らせる「選択の歴史表」の作成だ。将来について「自分の設計図」を書かせる高校は少なくないが、逆にこれまで歩んできた過去を振り返らせ、多種多様な選択の歴史を書かせる。生徒は将来について実感がわかなくても、過去を振り返ることなら容易にできるはずだ。そして、あのときなぜそんな選択をしたのか、別の選択をしていたらどうなっていただろうと考えることで、自分の選択力を見つめ直すきっかけとなるだろう。
卒業生の話を聞く会を設ける方法もある。様々な分野で活躍する卒業生に、仕事や生き方、学ぶことの大切さを話してもらう。生徒は先輩の選択の歴史を聞くことで、逆に自分の将来の選択について思いを馳せることができるだろう。また、自分とは違う世界に生きる人々の価値観、選択の基準に触れる場にもなるはずだ。
人は異なる価値観を知ることで、自分の価値観が照らし出され、鮮明になる。作文やディベートも他者の考え方に触れ、自分の選択力を見直すための取り組みに活用できる。例えば「(入学当時)高校生活に望んだもの」というテーマで作文を書かせても、生徒同士で読み合えば、高校進学という大きな出来事から自分の選択を振り返ることができる。また、「大学入試の撤廃(大学の義務教育化)」といったテーマでディベートを行えば、生徒は議論を通して様々な進学観に触れ、自分の中で今後の進路選択の軸を問い直すことができるはずだ。
高校生は進路選択の場面に次々に直面する。選択力をどのように身に付けさせるかは緊急の課題である。次に、進路研究を通した選択力の育成について考える。
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