VIEW21 2001.09  指導変革の軌跡 鹿児島県立武岡台高校

 有馬一之先生が同校に赴任したのは、今から5年前のこと。有馬先生が同校に来て感じたのは、教師と生徒との距離の近さだった。例えば放課後の職員室では、生徒の教科に関する質問に熱心に答える教師の姿を日常的に見ることができる。また年末の12月29日から年始の1月3日にかけては3年生も補講は休みなのだが、家よりも落ち着くのか学校で勉強をする生徒も多い。そんなときは教師も手弁当で登校し、正月返上で生徒に付き合い、特別講座を開講している。
 教師と生徒のそんな関係を見つめながら、有馬先生は「教師の言うことによく耳を傾ける、素直な生徒が多いなぁ」と思いながら、「でも、何かもの足りない部分がある」と感じていた。
 「本校に入学してくる生徒のほとんどは、大学進学を希望してはいますが、入学時の段階では学習習慣がまだ身に付いていません。また、進路について自発的に調べるというわけでもない。そのため生徒の意欲を教師の側が引き上げるような仕掛けが必要なのです」
 そこで、有馬先生は実力考査での目標平均点の設定を変えてみた。それまでは一律平均50点になるように問題がつくられていたが、それを1年生から3年生まで段階的に変えて、1年生の最初の試験では70点に設定した。
 「本校の生徒は、中学校までは勉強面でそれほど自信を持てた者が少なかったはずです。そんな生徒に良い点数を取らせることで、『やればできる』という自信を付けさせ、さらに自ら勉強する方向へと気持ちを向かわせることを狙ったんです」
 また有馬先生は進路指導部長として、各学年の担任に「生徒には、どの大学に入るかということよりも、大学で何が学びたいかを重視した進路指導をしましょう」と語り続けた。その結果、生徒の進路選択の幅を広げる指導に結び付いた。実は武岡台高校はここ数年、国公立大の合格者数を飛躍的に伸ばしている。その内訳を見ると、地元の鹿児島大の合格者の増加以上に、自分がやりたいことができる大学を求めて、進学先は全国へと広がる傾向が目立つ。同校の生徒の多くが、入学時には鹿児島大進学を希望していることを考えると、これは大きな変化だ。
 だが、有馬先生を含めて武岡台高校の多数の先生方は、「それでもまだ足りない」と感じていた。生徒の学習や進路に対する姿勢をもっと根本的に変えるような、次の一手が欲しい。そこで浮上してきたのが、高大連携だった。

「文部省の
研究開発学校の募集に、手を挙げようと考えています。期間は'00年度から3年間。テーマは高校と大学との連携です。大学教授による授業を、生徒に受けさせることなどをイメージしています」
 '99年の秋、職員会議でそう提案したのは、同校校長の内村正弘先生だった。校長も赴任以来、素直ではあるが受け身の生徒が目立つことが気になり、“元気の出る学校づくり”を唱えていた。高大連携は、その具体案の一つだった。

写真 教師と生徒の距離の近さ
教室でも廊下でも、そして職員室でも生徒が教師のもとを訪ね、質問をする風景を武岡台高校では頻繁に見ることができる。教師と生徒の距離の近さは、同校の特徴の一つだ。



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