城本 生徒の実状を把握する一方で、教師の実状も把握し、その上で全教師の意識を「総合学習」に方向付けることが大切です。組織というのは一気に変わることはなかなか難しいものです。学校に「総合学習」という新しいものが入るわけですから、その目的・実施内容・運用方法などの必要な情報を、リーダー役となる教師がその都度校内に流通させながら、全員の意識を高めていくことが必要となります。根気強く全体の意志を一定の向きに揃えていく作業が求められます。「総合学習」については、「大変そうだから、自分は当事者にはなりたくないな」「取り組んでいる人の後ろからついていこうかな」という消極的な意識を持っている教師もいるかも知れません。しかし、「総合学習」は学校全体で組織を挙げて取り組むことが大前提です。指導する側の意識を変えることができるかどうかがポイントになるでしょう。
Step 3
育てたい人材像の明確化
育てたい人材像のイメージを具体的な言葉にする
――「総合学習」は「生きる力」がキーワードですが、高校の人材育成は大きく変わるのでしょうか?
薄 すべての高校は既に「育てたい人材像」というものは持っています。大事なことはそれを漠然としたイメージのままにせず、再度、言葉として明確化し、共有化するということでしょう。また、一度言葉にしていても、21世紀の社会で求められる人材像の変化も、必要に応じて組み込むこともあるでしょう。時代が求める人材像は新教育課程の理念として謳われていますが、新学習指導要領の目標をいきなり学校の目標にそのまま移行させてもしっくりこないと思います。各校ごとに教育上の課題を把握、分析し、生徒や地域の実態を踏まえて、「現在の本校の生徒にはこの点が欠けている。そのためこのような教育を行い、このような人材を育てていく」という青写真を描くことが必要です。最近、SI(スクール・アイデンティティ)という言葉がよく使われますが、せっかくのSIもあまりに抽象的では、何を根拠にしたアイデンティティなのかとなってしまいます。学校の実態に合わせた具体的な目標を立て、それを教師も生徒も実感できる共通言語に置き換えることが大切だと思います。
城本 学校の教育目標には「時代の変化に応じて、変えなくてはならないもの」「変えてもいいもの」「変えてはならないもの」の三つがあります。今までの教育目標を整理して、まずこの三つに分けてみれば、変えてはならない普遍的なものが見えてきます。それこそがSIだと思います。教育改革だからといって、必ずしもSIや「育てたい人材像」を一から新しくつくることが必要なわけではありません。むしろ、長い時間をかけてつくられてきた自校の歴史、伝統を活かしていく方が納得感のあるSIや「育てたい人材像」になると思います。もちろん、「我が校は新しい取り組みの導入を機に、目指すべき人材育成の方向性も新たに確立したい」という考え方があってもよいと思います。どちらにしても、学校の大きな教育目標とつながっている必要はありますね。
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