VIEW21 2001.09  点から線の教育へ 中・高・大接続の深化形

大学の構造改革の方針

国立大の再編・統合は促進されるのか

 まず最初の方針である「国立大の再編・統合を大胆に進める」という点については、既に一橋大・東京工大・東京医歯大・東京外大の4大学連合構想や、東京商船大と東京水産大の統合、いくつかの地方大と同一県内にある医科単科大の統合など具体的な話が出てきている。しかし、さらに一歩踏み込んで、「県域を越えた大学・学部間の再編・統合」や「国立大の数の大幅な削減を目指す」と明確に謳っている点は目を引く。改革方針の3番目にあるトップ30大学というのを削減目標と思い違いする大学が出たほどである。小泉首相が国立大の地方委譲や民営化を検討すると言っている中で、文部科学省としてぎりぎりの線を出したという印象だ。実際に地方委譲するとなれば、税財源の地方委譲なども含めた改革が本当に実現しなければならない。例えば、各ブロックの総合大学クラスの大学には1大学あたり(金額にかなり開きはあるが)1000億円前後の費用が掛かっている。これに対して、大学独自の収入である授業料などは学生数から計算して、一桁違うであろう。また、医科単科大クラスでも200億円以上が掛かっており、その金額はそのまま地方財政に跳ね返ってくることになる。
 しかし、その他様々な問題はあるものの、実際にここまでの再編・統合の動きや行政の動きを見ると、ある程度の関門は乗り越えて、この動きは進むのではないだろうか。結果的に再編・統合の方向性としては、「単科大や、教員養成系学部同士の連合」の形だけではなく、「ブロックの核になる大学に周辺の単科大や地方大が統合される」といったパターンまで出てくると思われる。

国立大法人化に伴う諸問題

 改革の流れとしては、ある程度再編・統合を進めて国立大の競争力を高めた上で、2番目の方針である「国立大に民間的発想の経営手法を導入する」つまり、「国立大学法人」に移行ということになるだろう。経営責任の明確化による戦略的な大学運営や、能力主義・業績主義に立った新しい人事システムの導入などは、やはり競争力がないとなかなかできないと思われる。
 この国立大学法人への移行について、国立大学協会の総会や国立大学長会議では「地方大の切り捨てにつながる」という反対意見や、「道路公団のような特殊法人と教育を同列に扱っていいのか」という声がある一方で、「これをチャンスと捉えて積極的に改革を進めるべきだ」という意見もあり、国立大は決して一枚岩ではない。しかし、政治主導で国立大民営化も、という動きがあるくらいなので、法人化の動きは進まざるを得ないだろう。国立大全体で一法人ではなく、一大学一法人化となると、『法人化と同時に思惑の違いで国大協は分裂せざるを得ない』と言う大学関係者もいるが、あり得る話かも知れない。
 方針の中ではさらに、国立大の機能のうち付属学校やビジネススクールなどを独立採算制にすることも挙げられている。一橋大が昨年開講したビジネススクールを民営化するというのも、この方針に沿ったものであろう。このように、今後は国公私立の設置者区分を越えて、様々な経営努力によって、独自性や優位性をアピールしなければならなくなる。従来以上に個別大学のこうした情報に注意しておきたい。


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