VIEW21 2001.09  特集 国際化を視野に入れた進路観の養成

異文化体験が生徒の人間的成長を促す仕組み

 生徒が人間的に成長した、伸びたと感じられるのはどういう状態になったときだろうか。ここで、「幼い」と「成長した」を対比させてみたい。
 「幼い」=自分勝手、自分中心、視野が狭い、責任感の欠如、人任せ、指示待ち、異質性の排除
 「成長した」=視野が広い、柔軟、自発的、責任感がある、異質性に対して寛容、自己理解、公共性がある、他者への貢献志向、リーダーシップがある
 これを図式化してみると、空間軸・時間軸に沿って、外向志向・未来志向なのが成長した状態であると考えることができる(図2)。

図2 自己概念の構成図

 この図は、本誌4月号に掲載の「自己概念」の構成図と同じ物である。それでは、異文化体験がなぜ幼い生徒を成長させるきっかけになり得るのか、図3で説明したい。

図3 異文化体験が生徒の「人間的成長」のきっかけになる仕組み

 まず、今の生徒は、非常に狭い視野でしか物事を見ない。自分を中心とした人間関係の中にいるのは、同質性の高い友人だけである。他に生徒を取り巻く環境にいるのは、保護者や学校などといったところであるが、さらにそれを取り巻く地域コミュニティー、社会などは、よほどの事がなければ自覚することはできない。
 人間的な成長のためには、自分がこの社会に生かされていること、そしていずれ自分もその一員として社会に貢献する存在になることを自覚することが必要である。しかし、大半の生徒は、自分が生きている社会の輪郭がぼやけ、はっきりしない状態で生きているのだと思われる。
 さて、これらの自分を取り巻く社会が明確でない生徒たちが海外において異文化体験をするとどうなるのだろうか。海外の生徒たちとの学校交流などを行うと、必ず聞かれるのが「今の日本の経済や政治、大衆文化はどうなっているのか」「なぜそのような状態が生まれたのか」「日本の文化や歴史はどのようなものか」「それについてのあなた自身の意見はどうか」といった事である。
 ここに至って、生徒はいきなり、「日本という国に生まれ育ち、地域性を持った個人としての自分」の輪郭に気付くのである。そして、多くの場合、その自分の生まれ育った国や地域についてほとんど何も知らないことに思い至る。私自身の個人的な体験を含め、多くの異文化体験を持つ人たちが一様に言うのは、異文化を持つ人たちとの交流を体験すると、自分がどのような文化や歴史を背景として生まれ育ったのかを知りたくなる、ということである。
 つまり、異文化との交流は、自分の属する社会の輪郭を際立たせると同時に、それを意識し考えるきっかけを与えてくれるのだ。また、自分たちとは言葉も文化も歴史も違う「他者」の存在に気付くことで、異質な存在に対する寛容性が養われ、自己理解にもつながって、人間的成長を促すきっかけとなる。
 このように、従来の学習時間の確保・学習方法の効率化に加え、学習の動機付けと人間的成長を促すための学校行事の見直しを統合的に設計することによって、ポジティブに学力向上をはかっていく新しい学校像が見えてくると考えられるのである。


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