VIEW21 2001.09  特集 国際化を視野に入れた進路観の養成

多様な生き方に触れ進路選択の可能性を広げる

 国際理解セミナー、企業・学校訪問研修は共にシンガポールでの取り組みである。海外修学旅行の渡航先として、シンガポールは「岡山に縁のある日系企業が多いなど、本校の取り組みに最もフィットした国だった」と藤原先生。また、柴岡先生も「多民族が相互の価値観を認めながら見事に共存し、アジアの先進国となっている実態を肌で感じることができるという意味でも、シンガポールを選んだのは有意義だった」と考える。
 「“人から学ぶ”は、実は修学旅行に限った考えではありません。本校では、1年生の夏休みに『職業人に聞く』という進路学習のスタートに当たる取り組みを行っています。これは、保護者や親戚、近所の人などから職業人を1人選んで、仕事の内容、やりがい、苦労などを聞いてレポートするものです。また、2年生の5月に行われる『進路校外研修』では岡山県内の企業、大学を訪問します。この二つの取り組みは、まず身近な人に会い、そして次に自分には少し遠い存在の人に会うといったステップを踏み、それぞれの出会いを通して自分の進路を考えるきっかけとするものです」(藤原先生)
 進路校外研修では、生徒による職業人や大学教授へのインタビューが行われるなど、シンガポールでの企業訪問研修に発展する活動も多い。
 「身近で働く人々から、職業観や人生観を学び、さらに異文化社会の中で、自分の能力を見事に開花させ活躍している人々の姿に接する中で、自分の生き方を多面的な視点から考えることができるようになることが大切だと思います。そのことが新しい自分の発見となり、ひいては学習意欲の向上につながっていけば理想的です」(柴岡先生)

生徒の興味・関心を「学び」への意欲へと発展させる

遠い存在の人との出会い 邑久高校は海外修学旅行の約1週間前に「学校生活を考える週間」を今年度から設定し、地域住民への授業公開、さらに自校の生徒と町長やPTAの代表、OBなどによるパネルディスカッションを行った。
 「討論は『邑久高校の明日を考えるために』というテーマで全校生徒と地域住民の方々を前に行われました。討論に先立ち生徒会が主体となって、邑久高校に対して地域の人々がどのようなイメージを持っているのか、アンケート調査を行いました。自分たちの学校を、どうすればもっと良くできるのかということを、生徒一人ひとりが自分の問題として捉えると共に、生徒自身が地域社会の一員であるという自覚の下に、地域の人々と一緒になって考えてほしいのです」(柴岡先生)
 “人から学ぶ”場は数多い方がいい、と藤原先生は言う。
 「社会では何が求められているのかを、いろいろな人との出会いから感じ取らせたいのです。修学旅行での異文化体験を、生徒が『自分には関係ない』と思うのか、『これまで知らなかった世界が自分の目の前にも広がっている』と思うのかで、その後の生き方がきっと変わってくるはずです。シンガポールでは現地の学生と共に市内を回る班別自主研修もありますが、語学力の問題もあり、うまく意志疎通できる生徒は少ないはずです。言葉の壁も含めて、異文化コミュニケーションの難しさを体感してもらいたいです」(藤原先生)
 「そして、これらの取り組みを学力の向上へどのようにつなげていけるかが大きな課題です。体験型の学習から得られた生徒の興味・関心を、私たち教師は学びへの意欲に発展させなければならない。授業との連携など、教師にはまだまだやるべきことがたくさんあります」(柴岡先生)

【次ページより邑久高校の海外修学旅行の模様をダイジェストで報告します】


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