VIEW21 2001.09  特集 国際化を視野に入れた進路観の養成

働く女性の“影”となって生きざまを見つめる

 「自分はどんな人生を送りたいのか」を考えるきっかけとして、様々な女性の生きざまを生徒に突きつけるのが、東京女学館中学校・高校のアメリカ文化研修の大きな目的の一つと言える。そして、その目的を達成するための一大イベントが「ジョブ・シャドーイング」だ。
 「働く女性の1日を、文字通り影のように密着して見学する研修です。民間企業の支社長、主任研究員、大学教授など要職に就いている女性の仕事の様子を、生徒が2人1組になって追っていきます。普通なら部外者は入れないような現場まで同行させてもらい、ミーティングや研究風景など、実際に働いているシーンを目撃するのです。書類整理など簡単な仕事を手伝わせてもらっている生徒もいるんですよ」(吉澤先生)
 仕事の様子を見学し、アメリカ女性の仕事ぶりを同時体験した後は、生徒によるインタビューが行われる。「なぜこの仕事に就いたのか」「やりがいは何か」「仕事と家庭をどう両立しているか」など、生徒の英語力で可能な範囲で働く女性の考え方を聞いていく。日本とアメリカでは、女性の労働に対する考え方や労働条件・環境でやはり違いがある。生徒たちは異なる文化をここでも実感する。
 「実は、アメリカ文化研修が始まった当初は、働く女性によるレクチャーしか行っていませんでした。しかし、どうしても話を聞くだけで終わってしまう。それでは物足りない、ということでジョブ・シャドーイングを始めたのです」(吉澤先生)
 ジョブ・シャドーイングが終わると、生徒はそれぞれの自宅に招かれ、夕食を共にする。働く女性として、そして妻、母親として一人の人間の多様な表情までも生徒は見ることになるのだ。
 ジョブ・シャドーイングの翌日、生徒たちは一堂に会し、各々どんな女性に会って、自分がどんな仕事を見てきたか、発表し、体験を共有化する。
 「海外研修では、取り組み後の事後学習も重要になります。海外文化研修に参加した生徒同士が情報をシェアするだけでなく、日本に残っている生徒たちにもその体験を伝えなければなりません」(吉澤先生)
 同校では、アメリカ文化研修に参加した生徒、そしてほぼ同時期に行われる東南アジア文化研修に参加した生徒が、文化祭で研修の様子を発表している。
 「太平洋戦争の歴史を伝える遺構、博物館などを訪れる東南アジア文化研修と併せて、異文化理解の取り組みを学校全体に伝えていくために、もっと効果的な取り組みを考えなければいけません」(吉澤先生)

写真
大手スポーツ用品メーカーのマーケティング部次長の仕事を見学した生徒たち。

学校生活の様々なシーンで他者との出会いを演出

 国際化教育の中心を「異文化相互理解」とする東京女学館中学校・高校。そこには、生徒が「自分と違った他者の存在」に気付く仕掛けが必要、と教頭の福原孝明先生は言う。
 「例えば、中学校3年次での広島への修学旅行は、被爆の体験を持つ方々と実際に話をするなど、学校行事の様々なシーンで自分とは異なる体験、考えを持つ人々と接する機会を設けるように心掛けています。しかし、異文化相互理解は行事に参加している瞬間だけでなく、本来は日常的に取り組んでいくべきものです。そこで、修学旅行をはじめとする学校行事の事前準備など、できる限り生徒主体の運営を実現させるように配慮しています。生徒は集団で物事を考える過程で、人間関係も含めて他者、すなわち異文化を相互に理解していくのです」(福原先生)
 中学校3年次に行われる職業研究では、保護者が自身の仕事についてまとめた内容を冊子化し配布しているが、今年度からはその冊子を読んだ生徒が疑問に思ったことを執筆者に尋ねる”往復書簡的“なシステムをつくった。保護者は自分の仕事内容に関する生徒の質問に答え、その答えはさらにまとめて全生徒に配布される。
 「生徒と社会人である保護者との交流が、冊子を媒介に生まれたわけです。このようなちょっとしたアイディア、工夫で、学校にある従来の取り組みはさらによいものにできるのです」(福原先生)


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