VIEW21 2001.10  新課程への助走
 週5日制に向けたカリキュラム編成の試み(2)

事例3

埼玉県立不動岡高校の場合

 不動岡高校では、週5日制に対応して'02年度から2学期制を導入し、従来の50分授業に加えて一部の教科で90分授業を行う。同校教務主任の久保島昌一先生に、この改革に至るまでの経緯についてうかがった。


「自校の強みは何か」を問うところから
検討を開始する

 週5日制、'03年度新課程を視野に入れ、不動岡高校では'01年度以降のカリキュラムを検討するための「教育課程小委員会」(以下「小委員会」)を'99年に設置した。
 「小委員会」では生徒の現状を把握すべく、入学時(受験者の動向分析、入試データ)、入学後(模試のデータなど)、生活面(各種校内アンケート)の分析を徹底して行った。その結果、「潜在能力の高い生徒は数多くいる。しかし、教科学力、学習姿勢、考える力、行動する力がすべて伸び切れていない。自分に自信を持てていない」という予想以上の厳しい現状が明らかになった。「これでは新しいカリキュラムを組んでもうまく機能しない」と久保島先生は非常に危機感を抱いたという。
 「本校は歴史と伝統を持つ地域の中核となってきた高校です。しかし、改めて考えると、それ以外に本校が校内外にアピールできる要素が乏しいことに気がつきました。言い換えれば具体的な教育目標が確立されていないので、生徒も漠然と進学を目指しているところがありました」
 そこで「小委員会」では「生徒をどのような人物に育てたいのか」という教育目標を確立し、明確にすることが先決であると考え、「大学で伸び、社会で活躍できる人物を育てる」というコンセプトを提案した。さらに、生徒に身に付けさせたい力・資質について、教師全員にアンケート回答してもらったのである。「『大学で伸びる』『社会で活躍できる』とはどういうことなのか。これを全教師が考えることが大事だと考えました」
 新カリキュラム作成への道筋が具体化したことで、教師にはカリキュラム作成の流れが非常に分かりやすくなり、中学校や地域へのアピール要素も具体的になったという。

カリキュラムの方針作成と
「新不動岡ビジョン委員会」の発足

 カリキュラム編成の具体的な方針作成に際して「小委員会」は、「各教科における基礎・基本とは何か」「1年次において国・数・英を基礎重視教科とする」など、6点の検討事項を各教科に提示した。「『身に付けさせたい力・資質』のアンケート回答にも、『基礎力のない思考力はあり得ない』という指摘がありました。そこで方針決定の前に、改めて基礎・基本とは何かを教師一人ひとりが考える機会をつくりたかったのです」
 このような経緯を経て'99年には新カリキュラムの基本方針が決定した同校だったが、作成したプロセスの推進にも全校的視点からの検討が必要で、そこで新たに発足したのが「新不動岡ビジョン委員会」(以下、「ビジョン委」)である。「ビジョン委」は計16回開催され、その中で同校の存在意義と将来像を十分に討論して将来ビジョンを確立した。
 「会議では各回のテーマを予め設定し、それに関するレジュメを準備して配付しました。また可能な限り各委員にレポートをお願いしたのは、会議の時間を効率的に使いたかったからです。レポートには各委員の考えだけでなく、模試データや生徒の意識調査など、各分掌が所有しているデータが数多く添付されていて、それらのデータを教師全員で共有できたのが一番の収穫でした」
 こうして具体化した将来ビジョンを明文化したものが、「あすの世界を創造する品格あるリーダーの育成」であり、その実現のための3つの柱が「確かな学力と知性」「立志と誇り」「責任と貢献」である。特に「誇り」という言葉には、同校の熱い思いがこもっている。
 「『ビジョン委』で各部のデータが集約され、それぞれのつながりが見えてきたのですが、生徒の意識調査と成績結果を分析すると、『誇り』と『学力』とが密接に結び付いていることが分かったのです。本校で学ぶことへの誇りが、1年生に比べ2年生では薄れ、同時に学習意欲も低下してしまうのです。「あすの世界」を担うリーダーたれ、という意味からも、『誇り』という言葉を柱に入れました」


不動岡高校教師アンケートの結果(いずれも上位5件)
Q1「大学で伸びるために身に付けさせたい力・資質」
(1)思考力 (2)人間力 (3)知識・教養 (4)表現力 (5)社会的関心

Q2「社会で活躍するために身に付けさせたい力・資質」
(1)創造力・発想力 (2)教養 (3)常識・規範 (4)協調性 (5)忍耐力

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