そんな状況下での取り組みを、全面的にバックアップしたのが春藤校長だった。齋藤先生はこう語る。
「初めてのことで、どう進めていいか分かりませんでした。しかし、校長は我々が出した企画を常に前向きに評価してくれたのでとても助かりました。さらに、この内容について諸先生方に伝えていただいたことも、非常にありがたかったです」
全校の教師の理解と協力を得ようと、小山内先生は担任に指導してもらいたい内容を時期ごとに文書にまとめて配るようにした。
取り組みが進み、各教師が実際に活動を体験すると、1年生の先生を中心に「総合学習」への理解が広がっていった。
「学年会をはじめいろいろな場面の中で、『総合学習』に対する理解が徐々に得られているなと感じるようになりました」と小山内先生は言う。
事前・事後学習と体験後の発表会が成功の鍵
では、'00年度には具体的にどんな取り組みが行われたのか。
冒頭で紹介したように、活動の大きな流れは、職場体験学習を中心に事前学習、事後学習、発表会というものだ。職場体験を行うに当たって同校が心掛けたことは、生徒の希望をくみ上げ、それに沿った訪問先を見つけることだった。まず各クラスの担任が「なりたい職業」について生徒にアンケートを取り、それに基づいて個別面談を行った。「どうしてこの職業を希望したのか」と生徒の志望の方向性を確認し、場合によっては「それならこの職業の方が希望に合っているかも?」といったやりとりを経て、担任が生徒の希望職種の資料をつくった。それを小山内先生が集計し、齋藤先生が訪問先探しと訪問依頼を行った。突然の依頼にもかかわらず、ほとんどの企業・事業所が快く引き受けてくれたという。
最終的に訪問先は52か所に決定。希望者が1人しかいない職種、例えばカメラマン、スポーツインストラクター、翻訳家、喫茶店経営などについても訪問先をきちんと見つけた。多かったのは公務員(訪問先・市役所)、幼稚園などで希望者は20人以上にふくらんだ。
事前学習では企業への質問事項などを考えさせた。初めは取り組みに一歩引いていた生徒も、周囲の前向きな雰囲気に引き込まれるように積極的になっていった。
「自分もやらなければという気持ちになったんでしょうね。うちの生徒は素直な子が多いので、活動もずいぶんスムーズに進んだと思います」(齋藤先生)
そして当日の体験学習、さらに事後学習、発表会へと続いた。事後学習は生徒に800字程度の作文を課した。体験学習についてだけでなく、1年間の学習のまとめとして、職業について当初はどう考えていたか、それが体験学習を通してどう変わったかなどについて書かせ、それをクラスごとに全員に発表させた。
「発表を聞いて生徒たちは体験学習で何かを感じ取って帰ってきてくれたと強く思いました。生徒は感動したり、喜んだり、面白がったり……やってよかったとつくづく思いました」(齋藤先生)
各クラス担任が優秀作を二つずつ選び、体育館で全体発表会を開いた。1年生の担任はもちろん、校長や他の学年の教師も集まった。
春藤校長は「早い時期に職場体験してよかったというまじめな感想が多かったですね。生徒の真摯な姿勢に感銘を受けました」と全体発表会の印象を語る。
三上先生は、事前学習、体験学習、事後学習、発表会という、この一連の流れの中に成功の秘密があると強調する。
「ともすると体験学習は『体験しました。楽しかったです』で終わりがちです。生徒が自分の手で調べ、頭で考え、総括する機会を与えることで、進路意識、職業意識は一層深くなるはずです。また、発表会には他の生徒の考え方を聞いて改めて刺激を受ける、生徒同士で啓発し合うという効果もあります。この活動で培われた、自ら学び、考えるという姿勢は、必ずや他の場面で有効に活きるはずです。週5日制になれば、求められるのは自ら主体的に学習する生徒です。『総合学習』でそういう生徒を育てることができれば、この1単位は3単位にも4単位にも匹敵するものだと思いますね」
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