指導に工夫がなければ高校の新入生の学力は低下する
――中学校の新指導要領は高校の新入生の学力に、どのような影響を与えると思いますか。
藤森(国語) 新指導要領では「表現」「理解」の二領域から言語指導の視点を明らかにして三領域になりましたが、特に「話す・聞く」という表現領域が重視されています。反面、新しい方針を重視するあまり、「読む・書く」の指導がやや軽くなってくるのではないかと心配しています。新課程の教材からは、いわゆる「古典的名作」が削られる傾向にあり、文章をじっくりと味わわせるという機会を確保することが難しくなります。今の中学生の「活字離れ」も深刻ですし、学ぶ機会も使う機会も少なくなれば、指導を相当工夫していかないと、生徒の語彙力は低下の一途をたどるでしょうね。
深田(英語) 結論から言えば、一層の学力低下はあり得ると思います。現在、多くの中学校は週4時間の英語の授業を行っていますが、'02年度以降はこれが3時間に削減されます。問題はそのために精選される学習項目の内容です。
新課程では英語が実際に使えることを重視していますので、文法用語は基本的な重要語句に限定して教えます。例えば、不定詞を教える際に「不定詞の○○用法」といった詳細な説明はしません。文法用語を知らなくても、実際に使うことができればよいという考え方です。文法用語の難しさが生徒の英語嫌いの一因となっていることは確かですが、あまり軽視するのは、生徒が文法を体系立てて理解していく上で大きな阻害要因になると思います。また、「筆記体」も教えませんので、高校でいきなり使われても、生徒は全く読解できないという状況も起き得ます。英語に関しては、国際理解などに興味を持って、選択授業などで意欲的に勉強する生徒は伸びるでしょうが、全体としての習熟度や定着度は落ちると思いますね。
堀之内(理科) 理科は生徒個人の学力差が問題になるでしょう。新課程で中学校から高校に移行・統合された内容も、各中学校の判断によって、選択授業などで扱うことができます。教師が自校の状況を踏まえて、「高校で扱う内容だが教えよう」と判断することもあるでしょう。選択授業では、その授業を選択したかどうかで同じ中学校出身の生徒でも大きな違いが生じます。従来から存在した学力差が、さらに大きくなる可能性はあります。
深町(数学) 新課程は生徒が自ら興味・関心を持って学ぶことを目指すわけですから、学習の前に「面白そう」という興味を引き出すことが求められます。しかし、ベネッセ教育研究所が行った調査でも、「数学が分からない」と答える中学生の割合は3年生になると5割を超えてしまいます。例えば、理科などでは「不思議だなあ」と生徒が興味を抱く場面がたくさんあります。しかし、数学は非常に抽象的な世界で、基礎から積み上げないと、数学の持つ本当の美しさや学ぶ喜びを知ることはできません。元々、数学は自分の興味よりも、大切で必要だから学ぶという生徒の方が多く、一生懸命勉強した分、確実に成績が向上するということが学習意欲につながっていました。今後は「数学を学ぶことの面白さ」を理解させることから始めるわけです。最近の生徒の根気を考えると、非常に厳しいように思いますね。
新課程における高校での課題例
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国語
- ●説明や発表・対話や討論などコミュニケーション能力が重視されるため、相対的に読み書きの学力低下が懸念される
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社会
- ●知識詰め込みではなく「学び方を学ぶ」学習の充実が図られているので、教科知識が大幅に少なくなっている
●地域や事項、研究課題など、学んできた内容が生徒により異なる
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数学
- ●不等式や関数、図形など、中学校で扱っていたかなりの内容が高校に移行する
●新たな教科目標である「数学的活動の楽しさ」が身に付いているかは未知数である
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理科
- ●「電解質とイオン」など高度になりがちな内容を中学では履修しなくなるなど、高校で履修しない場合は履修の機会を失う項目が出現する
●目的意識を持って課題を探究する姿勢が期待される
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英語
- ●生徒の「話す」「聞く」志向が増大し、読み書きへの関心・能力が低下することが懸念される
●文法事項は実際の活用指導を重視し、用語や用法の区別を中心とした指導は行わないため、中学でどのような項目を扱ったかの確認が必要となる
●履修語彙数が減り辞書指導の必要性が増す。また、筆記体が分からない生徒が増加する
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