VIEW21 2001.10  特集 加速する大学の教育改革

大学教育改革の背景2

産業界を取り巻く状況と
望まれる人材像が変化する

――シャープ株式会社の採用担当部長に聞く

 大学は、新しい社会を築くための人材の育成を担ってきた。大きく変化している現在の社会状況の中で、企業は大学教育にどのような役割を求め、何を期待しているのだろうか。シャープ株式会社の採用担当部長である小林昭司氏にうかがった。

ビジネスの世界で勝ち抜く知恵とパワーを求める

 長い間日本企業は、新卒に主軸を置いた採用を続けてきた。だが近年、その形態が崩れつつある。小林氏は次のように語る。
 「以前の大量採用時代なら、予定採用人数を満たすために、当然採用基準の幅を広げて内定を出していました。採用してからしっかり鍛え、数年後に大きく育ってくれればよいという考え方だったのです。しかし、今はグローバルな企業間競争が激化しており、企業は中途採用や外国人採用も視野に入れています。つまり、実力型の人材を確保するために、新卒一辺倒の時代が終わり、競争で勝ち抜くことができるパワー(知識・スキル・意欲・行動力)と知恵を持った自立型人材を採用する時代がやってきているのです」

社会のニーズに対応するには幅広い視野が重要

 これまで新卒者は、いわば二重の意味で保護されてきた。一つは、大企業の採用は新卒が中心であり、ほかにライバルがいなかったこと。もう一つは、新卒は即戦力として扱われていなかったために、大学で何を学んできたかが厳しく問われずに済んだこと。しかし、現在は中途採用組とその実力を競い合わなくてはいけない状況になっており、飛び越えなくてはいけないハードルは確実に高くなっている。
 そのため、大学教員にはそれに見合った力の付く授業が、学生と企業から求められるようになった。だが、大学教員の取り組みには温度差があり、小林氏は「現状ではいろいろと要望したいことが多い」と言う。
 「最近の新入社員を見ていると、自分が学んだ専門分野以外の知識がない人が増えてますね。社会教育ができていないのか、学問が細分化されているのか分かりませんが、企業が必要としているのは狭い専門性ではなく、幅広い視野と応用力です。企業では、ソフト開発の担当者はハード、逆にハード開発の担当者はソフトのことを考えながら仕事に携わっています。両方が見えていないと、社会のニーズに対応した商品はつくれないのです。大学の教育も、まず基礎を幅広くしっかり修得し、その上で専門を掘り下げるカリキュラムにしてほしいですね」
 教育改革を進める大学に、小林氏は「優秀な人材を育成してくれることを期待するが、一方でもっと社会の動きを取り入れた産学のコラボレーションが必要」と指摘する。
 「大学側も企業の人間と交流することで、産業界の最新の動向がつかめるわけですから、自分の研究が産業とどのように結び付いているかにもっと関心を抱いていただきたいですね。それを学生への指導にも反映させれば、大学の教育改革もより実りの多いものになると思います」


写真 小林昭司
シャープ株式会社
人事本部人事部
採用担当部長

小林昭司
Kobayashi Shoji

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