VIEW21 2001.10  特集 加速する大学の教育改革

工学部に見る改革の現状
【改革の全体像】

国際水準の技術者養成を目指し、
土台となる基礎教育を徹底する


 大学の教育改革は今や待ったなしの状況といっても過言ではない。その具体的な動きを工学部を例に追いかけてみる。

より有機的なカリキュラムでの指導が求められる

 各学部系統の中でも、最も強く教育改革を推し進めようとしている学部の一つが工学部である。その背景には産業界からの強い要請がある。工学院大教務部長の木村雄二教授は次のように語る。
 「日本は科学技術立国と言われてきましたが、最近では技術者の人材難が深刻化しています。従来、企業は大学教育にはあまり期待せず、自らの手で人材の育成を行ってきました。しかし、今や社会環境は激変し、企業は大学に対して即戦力となる人材の提供を強く求めています」
 社会の求める人材を大学が育成していないことは、工学部に限らずずいぶん以前から指摘され続けてきた。だが今後、国際競争社会で日本が生き残っていくには、科学技術力の向上は不可欠で、それだけに工学教育に厳しい目が注がれている。
 では、現在の工学教育は、具体的にはどのような課題を抱えているのだろうか。横浜国立大工学部の伊藤卓教授は、特にカリキュラム面での改革が急務だと指摘する。
 「大学にはたくさんの教員がいて、それぞれが自分の研究テーマを専門科目として講義します。そのために選択科目の数が増え、学生は広く浅く、言わば科目を摘み食いするような形になります。結局、体系的に知識を修得できないカリキュラムになっているのです」
 専門科目数の増加は、その分、基礎関連の科目数が減ることにつながる。だが、技術革新は学問分野の垣根を越えて行われるのが常であり、企業は応用の利く人材を求めている。少なくとも学部段階では、技術者としての土台となる幅広い基礎知識の修得が大切なのだが、それにも対応しきれていないのが現状だという。
 「本当に必要な科目に思い切って絞ることで、工学の基礎を固めさせるべきでしょうね。これからは、教育目標を明確にし、科目間の関連などを分析しながら、より有機的なカリキュラムを構築していかなければなりません。担当科目を減らされることに抵抗する教員もいるでしょうが、この変革の流れを止めるわけにはいきません」(伊藤教授)
 これまで多くの大学が教育よりも研究を重視する傾向にあり、カリキュラムの改善や授業方法の研究などが疎かになりがちだった。大学は学生を育てるという責任を十分に果たしてきたとは言えない。その結果、基礎学力の不足が原因で講義についていけない学生や、目的意識が希薄な学生が増えており、大学の教育機関としての足元が大きく揺らぎ始めている。大学が本気で教育改革に力を注がざるを得ない状況が生み出されているのである。


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