【工学部に見る改革の取り組み】1
東京工大
理系教育の殿堂が抜本的な教育改革に動き始める
大学の教育に不満を持つ学生たち
長年に渡り日本の科学者・技術者育成に多大な貢献をしてきた東京工大もいよいよ本格的な教育改革に着手しようとしている。そのきっかけの一つになったのが工学部工学教育プログラム検討委員会が'99年度と'00年度学部卒業生に行ったアンケートの調査結果だ。
アンケートを'00年度卒業生に絞って見てみると、「卒業時、入学時に持っていた目標をほぼ達成できたと思いますか?」という問いに、「あまりそう思わない」「そう思わない」という答えが合わせて58.1%に達した。また「能力・スキルの修得達成度」に関する自己評価では、「理工系基礎科目の修得」「英語力の修得」「技術者として国際的視点で考える習慣の修得」などの項目が50%を割った。つまり、学生の多くは4年間で自分の学習目標を達成できたと考えておらず、特に基礎学力の修得に不安を抱いていることが分かる。学部教育の改善が急務であることが浮き彫りになったのだ。
一橋大などと連携して複合領域コースを設置
もちろん東京工大はこれまでも教育改善に取り組んでこなかったわけではない。森泉豊栄副学長は語る。
「例えば10年ほど前から、1年生を対象にフレッシュマンゼミを開講しています。これはゼミ形式の小人数授業の中で、学生にテーマを与えて取り組ませようというもの。実験や調査を通じて、工学の入口に触れさせることを目的としています。しかし、本学はより抜本的な教育改革を行う時期に来ています」
その改革の一つは「学内のカリキュラムの再編」だと森泉副学長は言う。東京工大でも学問分野の細分化により、学生が幅広い工学知識を身に付けることが難しいカリキュラム編成になっているので、これを変えていく必要がある。
「カリキュラム再編成は、既に授業を持っている教員からの抵抗が大きいのは事実です。しかし、教育改革は時代の要請です。強力に進めていくべきものと考えています」
一方で、東京工大の視線は外へも向いている。'02年度から東京医歯大、東京外大、一橋大との間に4大学連合を発足、各大学の異なる分野の教授が共同で行う「複合領域」の授業を開講することが決まった。「複合領域」は、開発システム工学と国際社会学などの視点から開発援助の在り方を考える「海外協力コース」など8コースで構成されており、学生は自分の希望するコースに参加できる。
「将来技術者として活躍するとしても、特許申請に携わるときは法律の知識が不可欠だし、ベンチャー企業を起こそうと思えばビジネスにも精通していないといけません。学問の枠組みを越えた複眼的な視点を学生に獲得させるのがねらいです」
東京工大では、'01年度からオープンキャンパスを新たに開催するなど、積極的な活動が目立つ。より魅力的な大学を目指し、東京工大の改革への機運は確実に高まっている。
東京工大はアンケート調査によって自校の教育改革の必然性を共通認識した。
|
東京工大副学長
森泉豊栄
Moriizumi Toyosaka
|
<前ページへ 次ページへ>
|