VIEW21 2001.10  特集 加速する大学の教育改革

大学研究を含めた進路指導の流れを高校も再検証を

 大学案内などの資料を活用して、専門科目だけではなく一般教養科目における外国語教育や、情報処理教育の充実ぶりなどを調べる生徒もいる。しかし、シラバスなどから大学の教育内容を客観的に判断することは高校生にとって決して容易ではなく、大学から提供される情報資料もまだまだ分かりづらく、不十分な点も多い。
 「大学の資料を生徒が見るときは、できるだけ教師がそばにいるように心掛けています。また、面談の際に生徒と一緒に資料を見ながら『この二つの大学ではここが違う』と具体的に確認するようにしています。細かく情報を分析していくときは、やはり個別指導でのサポートが重要です」(寺島先生)
 今後、大学の教育改革がさらに進み、各大学における教育内容のきめ細かい比較を行う必要が高まってくると、大学研究には今まで以上に時間がかかることになる。
 「進路指導の中で大学研究は職業研究や学問研究などから続く一つのテーマであり、それだけに多大な時間を割くことは難しいですね。また、生徒の意識面での成長段階に合わせた、大学研究の実施に適切な時期というものがあります。大学の個性化がさらに進んでいく中で、生徒の進路観をどのように育てるか、今まで以上に3年間を見通した進路指導計画が必要だと思います」(寺島先生)

大学改革の推進には高校との協業が不可欠

 多くの大学は自校の教育改革の中身を、高校側へ効果的にアピールしていきたいと考えている。そのためには、高校における進路指導の現状を踏まえた伝達方法が必要である。複数の大学が高校の低学年生を対象にした分かりやすい大学案内を新たに検討しているのもその一例だろう。昨年度まで東京都立新宿高校校長で、高校現場の実状に詳しい東京農工大工学部の水谷弘助教授も、「生徒は大学の中身を知らないまま進学し、大学は生徒の実態を知らないまま受け入れるような関係は終わりを迎えた」と断言する。
 「東京農工大では都立高校と高大連携の取り組みを行っており、高校生が大学の教員による講義を受けに来ています。大学教育の実状を知ってもらうこのような場は今後、益々増えていくと思います。本学の場合、その講義を高校の先生にも協力してもらって進めていますが、大学教育を真に改革するには、高校と交流し、相互に理解することが不可欠です。大学は高大連携授業やオープンキャンパスなど、生徒を受け入れる状況を積極的につくっていくと同時に、高校へもっと積極的に情報発信すべきです。高校生の『学びへの動機付け』にも大学は主体的にかかわっていく時代なのだと思います。そのための労を惜しんでは大学に未来はありません」

大学研究・志望校選択のプロセスから生徒に生き方を学ばせる

 大学にとって今後は研究活動だけでなく、高校と協力して若い世代を育てる取り組みも重要になってくると水谷助教授は予測する。寺島先生も「意欲のある高校生が、気軽に大学に教養科目などを学びに通える時代になればいいですね。単位認定や予算などの問題がありますが、大学がその環境、設備、人材を高校生の教育に活用してくれることは大歓迎です。高校と大学が協力して、幅広い教養を持った人材を育成していく時代なんでしょうね」と考える。
 「進路選択では選択の結果よりも、生徒自らが考え、選ぶプロセスを経験することの方がむしろ大切です。個性豊かな大学の中から自分に合った進学先を選ぶという経験を通して、人生の様々な選択のシーンでどのように物事を決めていくかを生徒は学びます。急激に変わりつつある大学教育を前にしても『進路指導は生き方指導である』という基本の認識を、我々は忘れてはならないと思います」(寺島先生)
 今後、大学の協力を得て高校では大学研究をはじめとする進路指導の取り組みが、より充実していくことになるだろう。大学の教育改革を契機にして、高校と大学が手を携えて人材育成に当たる時代がやってきたと言えそうだ。


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