VIEW21 2001.12  指導変革の軌跡 千葉県立成東高校

 9月21日午後、成東高校の各教室では、大学教員を招いて全学年を対象にした「学部・学科ガイダンス」が行われた。大学教員が自分の専門テーマについて講義をする、いわゆる出張講義だ。全部で27講座が開かれ、生徒たちはそれぞれ自分が興味のある講義テーマを、少し緊張した面もちで受けていた。
 2年生の伊藤美幸さんは東洋大の河本英夫教授による「哲学入門」を受講した。終了後、伊藤さんはその感想をこう話した。
 「いきなりウサギとカメの昔話が持ち出され、カメはどうしてウサギを起こさないまま走っていったんだろうね、と問題提起をされました。いろんな話題が出てきて、そうだなあって考えることの連続でした。高校の授業はどちらかというと覚えることが中心でしたが、大学では自分で頭を使って考えられなければいけないんですね」
 生徒が自分の頭で考えることの大切さを感じる、そんな経験をさせることを成東高校では重視している。出張講義を実施する第一の目的は「大学で学ぶ学問の特徴や魅力などについて考えさせ、自分の将来の進路に対する志望意思の確認と深化を図る」こと。だがその奧にあるねらいを、後藤敦先生は次のように語る。
 「今の生徒は周りから面倒を見てもらうことに慣れていて、指示を受けたことしかやろうとしません。しかし、大学の講義は、板書も決して丁寧ではなく、受け身のままでは何も得ることなく終わってしまいます。逆に先生の言葉に耳を傾け、自分なりに考える姿勢があれば、知的好奇心を刺激されるとても豊かな時間になるはずです。自分自身が主体的にならなければ大学に進んでも通用しない。生徒にそのことを伝えたいのです」

同校の「学部・
学科ガイダンス」は、'00年度の3月に初めて行われ、今年度で2回目となった。今年は、本来は6月中に実施する予定だったが、県からの予算が下りるのが遅れたために、9月にまでずれ込んだ。
 初回であった前回は、「正直、実施にこぎ着けるだけで精一杯」という面もあったという。事前指導はままならず、事後も間近に春休みが迫っていたために、生徒の感想文と講義ノートを載せた「報告書」をクラスに1部ずつ配っただけで終わってしまった。だが今回は、生徒に主体的に取り組ませるためにいくつか工夫を施すことができた。
 「一つは『事前調査票』です。予習として自分が受講するテーマに関連する書籍や資料を読み、それを調査票にまとめておくように指示しました。それによって講義に臨む心構えができたはずです」(後藤先生)
 大学教員によっては、あらかじめレジュメを作成して送ってきたり、自著を受講人数分寄贈する人もいた。しかし、中にはテーマ名のみが示されていて、内容については想像するしかないような講義もあった。例えば、東北大の高木泉教授(専攻・数学)による講義のテーマは「限りなく続けていくこと」。同校で数学を教えている久保木学先生は、何人もの生徒から質問されたという。
 「生徒たちは途方に暮れたみたいです(笑)。本当に困っている生徒には、多少のヒントを与えました。大切なのは自分なりに仮説を立てて、調べてみることです。今の生徒は準備されたものなら能力を発揮しますが、自分でゼロから組み立てていく力が弱いですからね。生徒にとっては、良い経験だったと思います」

写真
大学教員にとっさに意見を求められ、戸惑う生徒の姿もしばしば見られた。だが、こうした貴重な経験こそが主体的な授業参加への意欲を育てていくのである。



<前ページへ  次ページへ>

このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。

© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.