VIEW21 2001.12  創造する 総合的な学習の時間

従来の「郷土学習」の手法、考え方を
さらに深化させる

 福岡県立伝習館高校は'01年度より「総合的な学習の時間」(以下「総合学習」)を全学年一斉に開始した。プログラム名はミラクルステージ。生徒が伝習館高校というステージで夢や可能性を探り、多様な能力を飛躍的、奇跡的に伸ばしてほしいという願いが込められている。時間数は1学年から3学年まで毎週1時間だ。
 同校は柳河藩の藩校として文政7年(1824年)に創設。'03年には創立180周年を迎える伝統校である。卒業生の半数以上が国公立大に進むなど、進学校としての地元の期待も大きい。上村好生校長は「伝統校だからこそ『総合学習』に積極的にチャレンジしたかった」と語る。
 「時代は変化しています。伝統を活かす一方で、時代に合った教育が必要です。ミラクルステージをステップに、生徒をパワーアップさせ、一人ひとりに付加価値を付けさせたいと考えました」(上村校長)
 学校の現状に対する危機意識も背景にあった。教務主任の江口明利先生は言う。
 「進学実績も決して低迷していたわけではないんです。しかし、夢をもっと高く掲げて、さらに一つ上を狙う生徒を育てたい。そのためには、教師の側も現状に甘んじることなく生徒を育てていくという気持ちを強く持つことが求められていました」
 '99年12月、「総合的な学習の時間検討委員会」を設立、学年、教務、進路、そして各教科からメンバーを集め、内容の検討に入った。目標は「生徒をもうひと伸びさせる」こと。検討委員会のまとめ役となったのが現在、生徒研修部主任の長俊一先生だ。
 「『総合学習』には大きな可能性を感じていましたが、詳細となると当時はまだ得体が知れませんでした。そこで『VIEW21』などで取り上げられた『総合学習』の先進校に電話をして資料を送ってもらいました。突然のお願いにもかかわらず『どんな資料でも送りますよ』という高校ばかりでした。本校から学校訪問したり、職員研修に講師として来ていただいたこともあります」(長先生)
 昨年度、検討委員会のメンバーだった江口先生は「最初は正直、不安もあった」と振り返る。
 「しかし、他校の取り組みを聞いたり、委員会で討議するうちに、他校がこれだけできるのだから、本校だってできると思うようになりました。するとどんどん夢が膨らみ始め、実施が楽しみになってきたのです」
 同校では、福岡県が推進する学校活性化事業の一環として、'98年度から「郷土研究」を実施していた。1、2年生が担任・副担任の指導を受けながら、郷土の歴史・文化・産業をテーマに研究し、レポートを書く取り組みだ。委員会で検討の結果、この手法、考え方を「総合学習」に活かし、より深化させることになった。
 「全く何もないところから『総合学習』を始めたとしたら、先生方ももっと不安を感じたかも知れませんが、郷土研究の経験があったので、案外入りやすかったのではないでしょうか」(上村校長)
 具体的には、郷土研究の手法を活かしながら、産業、福祉、国際交流など、現在、地域が直面する課題をテーマとした「課題研究」を中心に置くことになった。

大学、社会に出て
実力が発揮できる生徒を育てる

 '01年度から始まったミラクルステージの主な活動は次の通りだ。
・1年次 職業研究
・2年次 課題研究
・3年次 大学研究、入試研究
 長先生は「ミラクルステージの成果の発揮を高校3年間という短いスパンでは見ていません」と語る。
 「目標は大学、社会で評価される生徒を育てることです。今、社会が求めるのは、人から言われたことをそのままやるだけの人間ではなく、無から有を生み出す人間、それができる能力を持った人間です。ミラクルステージを通して、自分で課題を見つけ、アイディアを出し、解決するという『学びの手法』が身に付くようにプログラムを考えました」


<前ページへ  次ページへ>

このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。

© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.