ミラクルステージでは、1年次の職業研究の後、2年次の課題研究で地域の課題について考え、社会との接点を探る。そして3年次の大学研究へと続く。ただし、2年次の課題研究が「なりたい職業」や希望の学部・学科とそのまま結び付くことを求めているわけではない。江口先生は「課題研究のテーマは興味・関心から選ぶので、どこかで希望の進路と重なってくると思います。ただ、1、2年生の間は志望が確定しない生徒も多く、進路面だけからテーマを縛る必要はないでしょう」と言う。
進路指導主事の中島敦雄先生も「進路と直結するに越したことはありませんが、それよりも主体的に研究に取り組むことで、自分で何かをやるという姿勢や実感をつかむことも大切です」と語る。
各学年の取り組みをもう少し詳しく見ていこう。1年次前半のテーマは、職業研究を通して社会を知ること。そして、自分の興味・関心を知り、社会のどの部分なら自分の可能性を伸ばして貢献できるかを探る。
1年次後半は、2年次の課題研究につなげるための、通称・ミニ課題研究。全7クラスの担任、副担任14名がそれぞれ研究テーマを出し、その講座を希望する生徒ごとに約10名単位のグループに分け、ゼミ形式で研究を進める。14のテーマの中から選ばせれば、生徒は「やらされている」という意識を持つこともなく、また教師は自分が出した専門テーマを指導することで、普段の授業とは別の教育力が引き出される。
ミラクルステージの中心となる2年次の課題研究では、教師の側から研究対象として歴史、科学など大枠の系統を示し、生徒は系統樹の枝になるテーマを自分で探し、6人から8人のグループを組んで研究する。
研究テーマ・内容面で重視するのは、あくまでアカデミックであること。学問の本当の面白さを知り、学ぶ意欲を燃やすには、学問の本道から入るのが一番だからだ。
3年次は、2年次で得たものを大学で活かせるように、大学入試を念頭に大学・学部・学科研究に取り組む。さらに入試問題を研究・分析し、予想問題を自分たちでつくるところまで体験する。
3年生のミラクルステージを統括する生徒研修部の河上信二先生は、3年生の前向きな姿勢に驚かされた。
「入試問題のような難しい問題に、3年生の1学期の段階からぶつかっていけるのか正直、半信半疑でした。難しいからと途中で投げてしまうんじゃないかと。ところが、教室に行ってみて、最初の段階から自分で何とか解いてみようと取り組んでいる姿を目の当たりにしてびっくりしました。私の予想を越えていました」
授業で学んだことが「総合学習」で一つにまとまる
3年間の取り組みに共通するのは、グループ学習の形態を取っていることだ。「グループ学習にこだわった」という長先生は理由をこう説明する。
「社会に出たらほとんどの活動はグループ単位です。自分とは違う他者を理解し、自分の役割を果たすことでお互いの力を高め合い、課題解決に当たるプロジェクト方式で力が出せる生徒を育てたいと思いました」
ミラクルステージに伴う効果として、授業との相乗効果が期待できる。例えば課題研究で環境問題を取り上げたとする。地歴・公民、理科、保健などの教科で身に付けた力がそこで試される。
「それらが課題研究を通して生徒の頭の中で一つにまとまっていく、そういう場としてミラクルステージを想定しています。日々の授業がなぜ必要なのかが実感できるような場です。今後授業時間が減れば、生徒の学びへの意欲と学び方が重要になりますが、それを『総合学習』で養えるはずです。『総合学習』が生まれたことで教科学習の時間が削られると考えるのでなく、むしろ授業の理解を深める機会ができたと捉えるべきでしょう」(長先生)
そもそも、同校はミラクルステージを「学力に反映する取り組みにする」ことを重視した。
「本校の生徒には志望大合格という大きな目標があります。学校として生徒の目標を達成させてやるには、学力にはね返るような『総合学習』でなければなりません。何かを体験して『楽しかったな』で終わるようなものでは生徒がついてこないと思いました。進学校として何をやるべきか、それが課題でした」(長先生)
上村校長も「『総合学習』の研究を通して勉強の面白さが分かり、意欲的に勉強するうちにいつのまにか高い目標をクリアする、そんな方向性が望ましい」と力説する。
「『総合学習』によって学問に対する理解が深まれば、授業中、生徒の顔が上がってくるはず」と河上先生は効果に期待する。また、課題研究を指導することによって普段の授業方法が照らし出され、教師の授業改善にもつながるだろうと予想する。
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