VIEW21 2001.12  特集 高校生の学力と学習行動成立の要件

教科別の課題

 この研究会にご参加いただき調査に協力してくださった高校は、今回の結果を基に、現場での生徒の学力変化をどのように捉え、どのように対応しているのだろうか。教科別にご意見を伺った。

国語
現代文・古文の内容読解設問の低下が著しい

 図5に示したように、評論・小説・古文の内容読解・心情理解に関連する設問が、'95年度と比較して正解率で10%前後下がっている。その一方で、あまり深い内容読解を必要としない設問が中心の漢文は目立った低下はないという結果になった。実際国語の先生方からは、「語彙や言葉に関する力がなくなってきており、現代文を読む力が下がっているのがよく分かる」、「表現や討論など以前より良くなっていると思う学習活動もあるが、思考力が低下しているのではないか」と言った意見が出された。読解力の低下は、他の教科の問題文を読む力の低下にも直結していることが容易に想像できる。国語という教科の性質上、高校生だけの読解力が低下しているということは考えにくく、小・中学校段階での問題も大きいと思われる。高校現場では、「朝の始業前に読書の時間を設ける」工夫をしたり、「評論や文学作品の授業で今までよりも一つの教材に時間をかけて深く読ませる」といった読解力低下を克服するための方法が採られているようだが、読解力低下というテーマに関しては教科を越えて先生方の悩みは深い。

数学
必修科目から外れた領域の下落率が大きい

 図2で示したように、文系の学力が低下して理系は低下していなかった。しかし、数学も内容を細かく見ていくと気になる点がいくつか指摘された。現場の先生方からは「計算力の低下をこの結果よりももっと強く感じている」、「記述式で思考過程を誘導せず、もっと高度な計算力を要求する問題であれば、さらに厳しい結果が出たかも知れない」など、計算力の低下に関する意見が多く出された。これらのご指摘は文系の正解率低下として現れている部分かも知れない。
 だがそれ以上に気になるのは、「論理的思考力・抽象的思考力が低下しているのではないか」というご指摘である。図6に見られるように、現行の指導要領で必修の数学Iの範囲は多少上がっているものも見られるが、必修以外に移行された領域は大きく下がっていた。さらに、必修以外に移行された領域には論理的思考力を必要とする設問が多いという理由もあって、正解率が20%近くも下がっていた。理系の生徒にとってはそのことの方が問題である。ある先生からは「多くの問題を演習するよりも、少ない問題をじっくり考えさせる授業を心掛ける」という意見が出されたが、数学の成績と最も相関の高い学習態度は偏差値45以上であれば、「分からない問題に遭遇したときに20分程度考えてみる」という項目だったことを考えると、特に2、3年生では重要な対策かも知れない。

英語
言語・音声領域を重視した指導の成果が出ている

 今回唯一正解率が上昇した英語だが、先生からは「身に付けるのに時間のかかる語彙・イディオムは下がっているのではないか」、「センター試験レベルの読解問題は国語力の低下があまり影響しないが、個別試験レベルの問題ではもっと影響すると思われる」、「英語においても文系の生徒の伸びが遅いと感じる」といった厳しい声も聞かれた。英語は言語・音声領域の指導がようやく定着し始めている時期なので、国語力の向上と共に今後の成果が期待される。

考察

 国語・数学・英語とも全体が大きく下がっているとは言えないが、データの細目を見ると「内容読解」、「論理的思考力」、「語彙」など、明らかに低下している項目があり、このことは高校だけでなく、大学教育にも影響を及ぼしていると思われる。
 また、国語・数学・英語以上に、理工系の物理・化学、医歯薬系の生物、文系の世界史・日本史の正解率の低下が著しい。各教科・科目の理解度・得意度が極端な低下傾向にあることは、高校生が内発的な動機によって科目選択をしにくくなっていることの反映ではないだろうか。
 さらに、学習指導要領との関連で見ると、正解率がやや上昇している「数学I」「英語の言語音声領域」は、必修もしくは力を入れている範囲であり、その成果が出ている面と言える。しかし、「数学II・A」の一部のように、以前は必修だったが、現在は必須ではない領域などは下がり幅が大きく、学習指導要領上で必修にするかどうかで大きな差が出ると言えるだろう。「日本史」「物理・化学」などの履修率が低下していることとも合わせ、今後検討の余地があるように思われる。
 このように大学で必要な科目を履修しないということが背景になって、国立大のセンター試験5教科7科目の議論が出ていると考えられるが、やはり、大学で学ぶために必要な科目はきちんと履修しておかなければならないのは言うまでもない。そのためには入試制度を変えるだけでなく、早い段階から各々の生徒が自分にとってどの教科・科目をしっかりと履修する必要があるのかを知ることが重要である。


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