VIEW21 2001.12  特集 高校生の学力と学習行動成立の要件

学習行動成立の要件をさぐる

 学力変化にかかわる先生方との共同研究によって、最近の高校生は 学びに対する意欲はあるが行動に移りにくい特性を示すことが検証された。学習実態と学力レベルの分析から抽出された「学び」に向かう要件は
(1)学びの目標 (2)学びの価値 (3)学習動機
(4)対処性―自己コントロール (5)学習評価にかかわる教育活動
の五つである。この五つの要件について、データ検証の結果をレポートし、先生方のご協力に感謝したい。


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学びの目標と価値を確かめる

 学習が成立するためには、生徒が「ありのままの自分」を受容することを前提に「なりたい自分」=目標を描くことが要件となる。
 「なりたい自分」を描くことは自分の将来にかかわることであるから、進路展望を考えそれに近付くために学習行動を起こすことが求められる。
 低学年の生徒に対して自己理解と進路展望にかかわる取り組みが推進されているのは、「目標」を持たせるための場を設計することによって教科学習への動機付けに役立てたいという願いが込められている。
目標の設定 高校生の将来展望にかかわる自己概念の肯定率の変化をまとめた図7によると、ここ10年足らずの間に「なりたい自分」=〈目標〉、「捨てられないもの」=〈個性・長所〉、「見えない良さ」=〈適性・成長の可能性〉といった3項目の肯定率は10%ほど低下しており、最近の高校生は未来に対する意思決定ができにくい状態に置かれている。
 国民の多くが程度の差はあるものの社会に対して閉塞感を抱いているとされるが、大人にテイクオフしようとしてアイデンティティ(自己の存在意義)を探索しつつある若者がこれに反応し、何のために生きるのかという目標が描けないため、進学や就職に積極的な意義や価値を発見できない生徒が約25%に達している。
 この事実は、保護者や社会が支えてきたインセンティブが機能しにくくなったことの反映かも知れない。このため、自己を時間軸の中に位置付けることができず「今」と「私」を軸にして「どうせ自分は……」とネガティブな自己イメージ(I'm not OK)を描かざるを得ない幼い高校生が増えている。

図

写真 高田正規
ベネッセ文教総研所長
高田正規
Takata Masanori

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