2 学びたいのに学べない
学習が成立するための第3の要件は、知的好奇心に支えられた意欲―内発的モチベーションである。
高校生は学力を向上させるためには「努力が大切だ」と98%が考え、「授業をしっかり聞く」ことを90%が肯定しており、学力向上を支えてきた努力主義と学校中心主義を否定する生徒は極めて少ない。
しかし、学習意欲を学びへの行動に移しにくい生徒が増え「学びからの脱落」が起こっているのである。
学習動機と学習行動 全体として、動因・動機は85ポイント、誘因は65ポイントのレベルで生徒は肯定しており、学力・対処性レベル別のバラツキは極めて小さくすべての生徒がほぼ同じ程度で「大切」だと考えている。ところが、学びへの行動レベルを見ると受動的行動は47、自主的行動はわずかに19ポイントの生徒が肯定しているにすぎない。
学校教育が当面している最大の課題は学びたいのに学べないと訴えるクライシス・サインにどう対処するかにあると言っても過言ではない。
'98年はいわゆる学力低下論が浮上した年であった。その多くは大学人からの入試科目削減と高校における選択科目主体のカリキュラムの弊害を指摘するものであるが、東京大の佐藤学教授は「学びから脱走する子どもたち」(『世界』'98.1)で6~7割の子どもが学びから脱走していると指摘している。「毎日、欠かさずに予習または復習する」生徒は20%レベルで学習離れはさらに深刻化しているようだ。
動機と行動のギャップを検証することによって教師によるインセンティブの効果を計測したのが図9である。このデータは (1)学力レベルと(2)対処性(コーピング)について高2、高3生の反応を検証している。このデータによると、学びからの脱落率は学力レベル別に見てバラツキが認められるが、対処性レベルでの格差はさらに大きく、「意欲」を「行動」に結び付けるキーワードは対処性(自己コントロール)であり、この育成を教育プログラムの中に位置付けることが課題解決につながるのではなかろうか。これが第4の要件である。
教育活動は生徒の自主性に委ねるべきで、「勉強したい者が好きなようにやれば良い」とか「一生懸命に授業を受けなければ知的能力は身に付かない」といった教える側の論理が強い予定調和の立場では、生徒の発するクライシス・サインに対応することはできない。
高校現場では、宿題を準備することによって「自主的学習」へ誘導しようとする試みが積み上げられている。オリテン(予習)・リハーサル(復習)・プログレス(発展)プリントや添削指導が時にグループ学習を伴いつつ展開され、生徒の「誘因」期待の高さを反映して一定の成果を上げている。
図9によると、対処性レベル別ではL1→L6に向かうに従って誘因効果は高くなるが、学力レベル別ではCレベルを頂点にした放物線を描いており「宿題」が中位の生徒に対してレリバンス(適切性)を確保しているものの上位や下位の生徒に対してはレリバンスを欠いているのではないかという事情が介在しているのかも知れない。
教師がインセンティブを準備しているケースでの脱落率に注目すると2年生と3年生とでは明らかにその反応が異なっている。3年生ではA~Cレベルでの脱落率が高くなるし、「自主性」に委ねるケースでも3年生では下位層は学びに向かうものの、上位層での脱落が進み、「平準化」現象が起こっている。これは、3年生7月になると上位の生徒が予・復習や宿題以外の学び―入試対策として発展学習に力点を移しているという点で評価できよう。
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