VIEW21 2002.2  新課程への助走
 新課程で高校の「教科指導」はどう変わるのか

科目間、教科間での指導内容の共有

 新課程では、場合によっては、科目間あるいは他教科との間で指導内容の情報を共有する必要も生じてくる。ここでは大幅な科目再編成が行われる「理科」を例に取り上げる。


【理 科】
数学との間で指導内容を共有し進度を調整する必要も

 新課程の理科の科目編成には大きな特徴が二つある。IA科目の統廃合と、三つの2単位科目の新設である。新設される「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」は、その中から1科目以上を選択必修しなくてはならない。理科では新課程を機に中学校から高校に移行する項目が少なくないが、「理科総合A」「理科総合B」にはその移行項目が多く含まれる。そのため、新設の2単位科目の中からどの科目を選択し、どのように指導していくかが新課程へのスムーズな移行の鍵となる。
 「理科総合A」では中学校の第1分野から、仕事と仕事率・電力量・水の加熱と熱量・電気分解とイオンに関する項目が移行されているが、その指導に際してはどのような注意が必要なのだろうか。例えば、「理科総合A」では原子の構造からイオンという粒子の状態を学習させるが、これは現行課程の化学IBでの指導内容とほぼ同じである。しかし、生徒は中学校でイオンという概念を説明されていないため、高校の授業が今までと同じ内容では十分に理解することができないことが予想される。また、新課程では前述の通り、数学の履修状況も大幅に変更されているため、数学的な概念(ベクトルや2次関数、指数など)を必要とする項目の指導にも細心の注意が必要である。例えば、力学を扱う場合、生徒がベクトルの知識を持っていることが望ましい。しかし、従来ならば力学もベクトルも、共に2年次に履修させることが多かったが、新課程では2年次にベクトルを指導し、1年次に理科総合Aで力学の基礎を指導するケースが増えるだろう。今後は、教科を横断した全体的な進度に関する配慮も必要になる。

科目の枠を越えた柔軟な発想で指導する

 多くの高校で開講されることが予想される「理科総合B」には、「生物」「地学」の内容が含まれる。そのため、「理科総合B」を担当する教師は、これまで担当してきた科目以外の内容を教えなければならなくなる。これまで以上に、教科内で事前に十分情報交換を行い、指導のポイントを共有しておく必要がある。「生物の分野はこう教え、地学はこう教える」といった科目別の教え方ではなく、例えば、『地球の移り変わり』と『生物の移り変わり』では、地球誕生からの地球環境の変化と生物の進化の移り変わりを絡ませて教えるなど、柔軟な発想で理科の教科指導法を考えることも可能となる。
 「理科総合A」「理科総合B」の指導は、3単位科目の前倒し指導ではなく、生徒が自然に対して興味を持つような、理科に対する学びの動機付けとしての活用が期待される。


表5 理科における科目再編の状況
現行 新課程
  科目 単位   科目 単位
  総合理科



  物理IA
  物理IB
  物理II
  化学IA
  化学IB
  化学II
  生物IA
  生物IB
  生物II
  地学IA
  地学IB
  地学II
4



2
4
2
2
4
2
2
4
2
2
4
2
  
  理科基礎
  理科総合A
  理科総合B

  物理I
  物理II

  化学I
  化学II

  生物I
  生物II

  地学I
  地学II
 
2
2
2

3
3

3
3

3
3

3
3
※必修科目
:現行→総合理科/物理IAまたは物理IB/化学IAまたは化学IB/生物IAまたは生物IB/地学IAまたは地学IB、以上の5区分から2区分に渡って2科目4単位以上を選択。
:新課程→理科基礎/理科総合A/理科総合B/物理I/化学I/生物I/地学I、以上から「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」のいずれかを1科目以上含め、2科目以上を選択。

表6 中学校の指導内容から高校へ移行される項目
 理科総合A
・ 仕事と仕事率
・ 電力量
・ 水の加熱と熱量
・ 電気分解とイオン
 理科総合B
・ 遺伝の規則性
・ 地球上の生物の生存要因
・ 地球の表面の様子
・ 惑星の表面の様子
・ 大地の変化の一部
 中学校の指導内容から削除される項目
・ 溶液による水溶液の違い
・ 天気図の作成
・ 情報手段の発達

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