VIEW21 2002.2  指導変革の軌跡 長崎県立島原高校

 '97年6月、島原高校は学区内の中学校の先生方を招いて「島原高校と関係中学校との連絡協議会」を開いた。内容は1年生の授業の公開、中学校の教師と1年生による出身中学校別の懇談会、双方の教師間での情報交換などを行う研究協議会といったものだ。中学校の先生方に高校現場を公開すると同時に、3か月前に中学校を巣立った生徒たちの様子を知っていただくのが目的だった。
 その研究協議会での席上、ある中学校の教師が「つい先日まで中学生だった生徒たちが、わずかな期間で高校生に変身しているのには驚きました」と公開授業と懇談会の感想を述べた後、こう言葉を継いだ。
 「しかし、もっと驚いたのは授業の進度です。中学校では1年、2年、3年と1段ずつ階段を登っていくのに対して、中学3年と高校1年の間には、3段分ぐらいの段差がありますね。これでは教わる生徒も、教える先生方も大変でしょうね」
 研究協議会に出席していた島原高校の寺田隆士校長(当時)に、この中学校の教師の一言は重く心に響いた。確かに1年次の最初の段階で高校生活に適応できず、つまずく生徒は少なくない。校長はさっそく職員会議でこの中学校の教師の発言を紹介し、中学校と高校との連携の重要性を、全教師に訴えかけた。
 当時、1年生の学年副主任だった木村広先生は、校長から中学校の教師の話を聞かされるまでは、中高連携についてそれほど深く意識していたわけではなかった。ただ「最近の生徒は予習をする姿勢が身に付いていない。一体どうなっているのだろう」という不満を抱いていた。だが、“中学と高校との段差”を耳にして以降、「生徒の質的変化の要因を、生徒の側にだけ押しつけるわけにはいかない」と考えるようになったという。
 「中学校では予・復習をしなくても、授業だけで生徒が理解できるような指導になっていると言います。一方、高校では従来通り、家庭学習をしていることを前提とした授業を展開しています。これでは高校の授業についてこれない生徒が出てくるのも無理はありません。高校も自らの指導スタイルを見つめ直す必要があると感じたのです」
 しかし、島原高校は進学校であり、生徒たちのほとんどが大学進学を希望している。中学校との段差を緩やかにしすぎると、志望大学への進学という目標達成がおぼつかなくなる。現校長の松永勇先生も次のように語る。
 「中学校までの流れに沿っている限り、生徒は高校進学後も高校1年生ではなく中学4年生になります。高校1年生にさせるには、やはり生徒たちに3段の段差を飛び越えてもらうしかないんです。問題は、いかにして円滑に飛び越えさせるかであり、そのための方策が、現在取り組んでいる“導入期の指導計画”なのです」

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入学直後に行われる雲仙合宿では、計16時間半にも及ぶ自学自習の時間が組まれている。長時間勉強したことのない生徒も、他の生徒の頑張りに励まされながら机に向かう。



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