VIEW21 2002.2  指導変革の軌跡 長崎県立島原高校

島原高校に
入学はしたものの、まだ“高校生”にはなりきっていない生徒たち。そんな生徒にいきなり“3段の段差”に挑ませようというのが、3泊4日の雲仙合宿研修だ。
 雲仙合宿研修が実施されるのは、例年4月中旬。入学式を終えたばかりで、まだ生徒はクラスメートにも馴染んでいない時期だ。
 この合宿では、「やや欲張りなぐらい」(木村先生)に様々な取り組みが盛り込まれている。例えばクラスの融和を図るための野外活動。集会時の並び方、礼儀作法などを身に付ける集団指導。高校生活への意欲を高めるために、外部から講師を招いての講話。そして計16時間30分にも及ぶ自学自習の時間。
 「これだけの要素をあえて取り入れたのは学業面、生活面で生徒たちの姿勢を一気に変えるためです。高校は、中学校までと違うことを生徒たちに明確に意識してほしいのです」
 合宿で、最もウエートを置いているのは、やはり自学自習の時間だ。多い日には1日5時間以上がこの活動に割かれている。生徒は机を壁に向け、黙々とペンを動かしていく。私語は禁止。中学校までは、長時間勉強した経験のない生徒も少なくない。そんな生徒が、他の生徒の頑張りに励まされながら「やればできるんだ」という達成感を味わえる貴重な機会と言える。また教師への質問時間も設けられており、疑問点を教師に臆することなく聞ける雰囲気がつくられている。
 「合宿研修をスタートさせてから大きく変わったのが、放課後、教師のところに質問にやってくる生徒の人数です。それまでは1年生が教師を訪ねることはあまりありませんでした。生徒たちが学びに対して積極的になりましたね」(木村先生)
 この雲仙合宿研修を補う形で、6月と11月に2泊3日で実施されるのが部活動生学習支援合宿だ。近年、部活動と学業を両立できない生徒が増えているため、体育部顧問会が発案し、体育部に入っている1年生の希望者を対象に、学内のセミナーハウスを使って自学自習を中心とした学習指導を行っている。
 また、生活指導の面でユニークな取り組みが、交通マナー指導委員制度である。3年生が指導委員となり、列車やバス、自転車通学時のマナーを1年生に指導する。背景には、地域住民から「生徒たちが乗り物の入口に固まっているために乗り降りがしにくい」「無灯火や信号無視など、乱暴な自転車運転が目立つ」などの苦情が寄せられたことがある。
 「そこで着目したのが、上級生による下級生への教育力です。本校では体育祭のとき、3年生が下級生に応援指導をするのですが、これが教師も感心してしまうぐらいに見事な指導なのです。この指導力を他の場面でも活用したいということで始めたのが、交通マナー指導委員制度というわけです。おかげで今では交通マナーはずいぶん改善されました」
 こういった雲仙合宿研修や交通マナー指導などを通じて、生徒たちの意識は一気に“高校生”へと駈け上がる。同時に教科指導においては、生徒の到達段階に応じたきめ細かな指導が実施されている。
 「入学直前の春休みにはブリッジ教材を課題として生徒に取り組ませています。入学後は実力テストなどによって、生徒の学力を正確に把握し、弱点補強をしながら、段階的に難度の高い授業へと移行しています」
 高校生は入学した段階では、まだ高校生予備軍にすぎない。それをできる限り早く円滑に、本物の“高校生”にしていくための取り組みを、島原高校では展開している。

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導入期の指導として、通学時のマナー指導や清掃活動など、生活指導にも力を入れる同校。教室の清掃活動では、生徒を監督・指導するだけではなく、教師も一緒に取り組む。



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